T-1 WORLD CUP » 座談会




座談会「優勝するのは、どれだ!?」後編

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いよいよ、最終回。

大好評でお届けしてきた
『Casa BRUTUS』副編集長・西田善太さん、
『宣伝会議』編集長の田中里沙さん、そして
『Pingmag』編集長、ウレシカさんによる
T-1特別座談会も、ついに佳境へと突入。

どのTシャツが、優勝するのか?
3名のスペシャリストの予想や、いかに?

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── それでは最後に、ズバリお聞きしたいと思います。
どのTシャツが、優勝すると思いますか?
ウレシカ うわー(笑)!
うーん、デザインの勝負とは言っても、
やはり、それぞれ
コンセプトがあるじゃないですか。
たとえば、卓さんの「104.5°」の意味を知ったら、
おもしろいと思って買うかもしれないし‥‥。
西田 実際、Tシャツというものに
これだけ能書きたれる企画はないですよ!
一同 ははははは(笑)。
西田 もうほんとうに、うるさいくらいです(笑)。
レジュメがあって、インタビューがあって、
プロフィールがあって‥‥。
ここまで丁寧にやられると
やっぱり、読んでしまいますよね。
グラフィックの意味や
デザイナー個人を深追いする買い方もあるし、
パッと見ためで、好きなデザインを選ぶ、
という人もいるだろうしね。
昨年のトムさんの勝因は、
スソの部分の挿し色だと思ってたんですが、
今年はそれ、やってないなぁ。
ウレシカ ああ、そうですね。
西田 でも、昨年2位だった
可士和さんの「Peace」と
トムさんのTシャツで、なんとなく
傾向がわかるような気がしますね。
ウレシカ うん、うん。
西田 みんな、けっこう
シンプルなものを買ってる。
田中 どれもみんな良いんですけど、
いざ、自分が買って着るとなると。
西田 何段階か、ありますよね。
田中 デザイン、そのコンセプト、
デザイナー個人のこと、
そこから、
実際、自分に似合うかどうかまで。
その段階を踏まえての勝負になるので、
ほんとうに、予想がつきませんよ。
でも、かわいさでいったら
カム・タンさんのかなぁ。
── それは、
ご自身で着たいという意味ですか。
田中 そうですね。
でも、女性からも男性からも、
かわいいと思われそうな気がします。
あと、卓さんのTシャツは、
まわりの人に「何、その数字?」って
絶対に聞かれるから、
そう聞かれたくて、買う人がいそうな(笑)。
── かわいさ、ということで言うと
井上嗣也さんのTシャツを推す
読者メールも、けっこう来ていますね。
ウレシカ うーん、難しいなぁ‥‥。
西田 じゃあ、決勝に残りそうなTシャツを
4枚くらい選ぶ、という方向で
考えてみましょうか。
ウレシカ もし、日本が
サッカーW杯のホスト国だったら
(秋山)具義さんのがTシャツが
けっこう勝ち残るんじゃないかと思います。
西田 このTシャツは、
かなりのトリックプレーですよね(笑)。
田中 うん(笑)。
西田 彼の個性が出ていますよね。
むしろ、海外の人にウケるんじゃないかな。
深澤さん、トムさん、ミミさん箭内さん
それと、ナンドさん
僕は、そんな予想です。
どうですか、ウレシカさんは?
ウレシカ うーん、考えて‥‥ます(笑)。
西田 青木克憲さんのTシャツ、
背中にはなにか書いてあるんですか?
── 「japan」と。
西田 そうか、そして鯉のぼりか‥‥。
田中さんは、どうですか?
田中 深澤さん、カム・タンさんと、卓さん‥‥。
西田 ほう。
田中 それと、以前、
日本のサッカーチームの人たちが、
ナンドさんのようなTシャツを
作って着ていたのを、見たことがあるんです。
サッカー好きな人に響くデザインなのかなぁ。
箭内さんのTシャツも、
「オレ、ココ」というメッセージが
効いてきそうですよね。
── ウレシカさんは、決まりました?
ウレシカ 深澤さんと、青木克憲さんと、
ファンクスタジオハーマンズトラ、ナンド。
キンガさんのショパンも、
個人的には大好きなんだけど‥‥
サッカーという感じではないからね。
── みなさん、深澤さんには1票を投じていますね。
ナンドさん、ミミさんには、
3名のうち2名のかたが、投票されました。
西田 ナンドさん、ミミさんのTシャツは
繊細な雰囲気を持っているから、
女性でも大丈夫そうですよね。
田中 ああ、そうですね!
実際に、買うとなると気が変わることも(笑)。
ウレシカ 逆に、深澤さんのTシャツを
どうしようか迷ってたんですが、
その理由は、女性っぽい印象だから。
── 男性にとってどうなのか、ということですね。
ちなみに、ファンクスタジオのTシャツの裏側は、
表のデザインの白黒が反転したプリントです。
ウレシカ ええー! かっこいい!
ほんと?
── あと、ステファンさん
「NEW YORK CITY」のタグには、
なんとジョン・レノン本人の写真が入ってます。
西田 それも、強いねー!
── 青木淳さんのTシャツは、どうですか。
西田 深澤さんのTシャツは、もしかしたら
女性っぽく思われちゃうかもしれないし、
逆に、ミミ・ソンさんのは、
すっごいかわいいけど、たぶん女性向け。
そういう意味でいうと、青木淳さんのは
男性でもぎりぎり大丈夫なんじゃないかなぁ。
でも、サッカーW杯の視聴率が高ければ、
カム・タンさんのTシャツでしょう!(笑)
ウレシカ サッカーファンだったら、
ファンクスタジオとナンドさんも
はずせないでしょうね。
もし、そこまでサッカーファンではなくて、
かっこいいTシャツが好みだったら、
青木克憲さんか、キンガさん、
またはハーマンズトラさんでしょうか。
青木淳さんのデザインはすごくきれいで、
ステキなんだけれど、
もしかしたら、日本人じゃないと
この感性はわかりにくいかもしれない‥‥。
── うーん、やはり、チャンピオンを
ひとりに絞り込むのは難しいですよね‥‥。
西田 ストレートにデザインだけで
選ぶわけじゃないし、
そこからさらに「ほぼ日」の読者や
海外からの視線にまで
思いを馳せなきゃいけないから、
ものすごい重労働ですよ(笑)。
── すいません(笑)。
西田 でもT-1には勝ち負けがあるから、
1ヶ月後には
結果が歴然と出てしまうんですね。
── だから、僕たちも
ものすごく楽しみなんです。
ウレシカ ほんとうですね。
すごく楽しみになってきましたよ。
ここまで考えると(笑)。
西田 やはり、難しかったなぁ。
予想をはずすのも恥ずかしいから、
みんな口を濁しつつ(笑)。
田中 私たちが話していたTシャツとは
ぜんぜん別のTシャツが優勝したりして(笑)。

<終わります>

2006/6/20 火曜日

座談会「優勝するのは、どれだ!?」中編

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お待たせしました!

『Casa BRUTUS』副編集長・西田善太さん、
『宣伝会議』編集長の田中里沙さん、そして
『Pingmag』編集長、ウレシカさんによる
T-1特別座談会の中編をお届けします。

3人のスペシャリストが見る、「東京のデザイン」とは?

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── 今回のT-1には、世界13カ国から
デザイナーが参加しているのですが、
いわゆる「東京のデザイン」というものについて、
みなさん、どう感じていますか?
田中 日本の広告に関していうと、
今年、NYのクリオ賞を日本の企業が受賞したり、
そんな動きが、すこしずつ、出てきました。
傾向からいいますと、
派手ではなく、細かなワザを効かせた広告が、
海外から注目されてきていますね。
『宣伝会議』の編集部にも
オランダやスウェーデンなどから、
日本のクリエイターと会う場を作ってほしい、
という依頼が来たりもしています。

飛び込み営業的なので、
そこまで世界に日本の情報が伝わっているのかーと
驚くとともに、嬉しくなります。

西田 建築に限っていえば、
丹下健三さんや磯崎新さんをはじめ、
昔から海外に出ていってますので、
いま、日本がとくに注目されている、
というわけではありません。
でも、その後、安藤忠雄さんのように
商業建築からキャリアを積んだ人たちが出てきて‥‥。
そしていまは、30代から60代までの建築家が
渾然一体となって、争い、協力しあっている状況。

ですから、建築家を参加者に選んだのは、
おもしろい試みだと思いましたね。
── ふだんは立体物を作っている建築家が
Tシャツという2次元のキャンバスに
どんなデザインを描くのか、
僕らも、すごく楽しみにしていました。
西田 それに加えて、いまは、たとえば
佐藤可士和さんをはじめ
おもに2次元の分野で活躍されていたかたが
建築の方面にまで、活動の場を広げようとしている。
デザイン分野間の境界線が、
曖昧になってきているんじゃないかなぁ。
田中 領域を超えて活躍する人が注目され、
支持されていますよね。
西田 デザインに関わる人たちにとって、
活躍する場所の線引きが、薄れてきている。
とくに90年代以降、専門家以外の人たちが
グラフィックをしたり、本をつくったり‥‥
そういうことができるようになった点が、
東京のおもしろいところだと思います。
── なるほど。
西田 逆にいうと、以前は
たとえばグラフィックなら
グラフィックデザイナーだけのものだったのに、
いまは、そうではなくなっているという
厳しさもあります。
たとえば、プロダクトデザイナーが
Tシャツをデザインするなんて、
10年前には考えられなかったし、
たとえ作ったとしても、
誰も見向きもしなかったと思います。
それを束ねるメディアも、なかった。
── 確かに、そうかもしれませんね。
西田 いろんな背景を持つ人たちが、
ただ、「Tシャツ」というルールのもとで闘う‥‥。
だから「Tシャツ」なんだ、とも言えますよね。
誰にも有利じゃないですからね、これは。
田中 そうそう。
西田 しかも、見ている側の職業や年齢、
そして国籍さえもさまざまだから、
SMAPの広告作ったと言っても、
全体には、通用しない。
佐藤可士和という名前でさえ、
ほとんど関係ないところが、すごい。
田中 去年は、「みんなが着たくなるTシャツ」
というテーマでしたから、
作る側も、「みんな、何が着たいんだろう」
という気持ちから入ったように思います。
でも今回は、より「デザイナー魂」を感じるというか、
一方で「こういうTシャツが、かっこいいんだよ」
「こういうTシャツを、着てほしいんだ」という思いと、
他方で「とはいえ、選んでほしいな」みたいな、
その葛藤があるだろうと思うんですね。
── はい。
田中 ですから、今回のT-1には
そうした部分に折り合いをつけたところで
みなさん、かたちにしたのかな、
という感想を持っています。
だから、よけいに難しい感じもするのですが、
見ている側はいろいろ想像(妄想)できて、
楽しいですよね。
可士和さん、今回こうなのか、とか
箭内さん、こう来たかー、みたいな。
意外な感じを受けたTシャツも、ありましたね。
── 箭内さんのTシャツ、意外でしたか?
田中 はい、けっこう意外でした。
西田 これ、どういう意味なんですか?
── 「オレココT」という名前で‥‥。
西田 あ、心臓のところに、日本の地図。
── それに加えて、
海外へ行った時に、あなたの国は?
と聞いて、指さしてもらおう、という。
西田 なるほど。それだったら、
国境線が変わるたびごとに
作り直してほしいですよね。
田中 そうですね(笑)。
西田 あ、これ3年前のTシャツだねってわかる。
この国、いまないじゃん、みたいに(笑)。
田中 秋山具義さん青木克憲さん
サッカーが大好きだから、
応援する気持ちまんまんで、
こんなビジュアルにしたのかなー。
── ジャパンブルーを出してきたのは、
大橋歩さんだけでした。
田中 逆に、他の日本人デザイナーが
出さなかったのって、意外ですよね。
── 白地のTシャツが多いことついては、
何か理由がありそうですか?
西田 うーん、勝負に出るとなると、
白だったりするんじゃないかな?
青木(淳)さんなんか、
もしかしたら、考えてたかもね。
いろいろなTシャツが出てくるだろうから、
結局いちばん目立つのは白なんじゃないかって。
── サイラスさんのイラスト、
これって、衛星に乗ってる‥‥。
デザインといっしょに届いたメッセージには
「Happy Ending」と入っていたのですが、
これはどんな意味なんでしょうか?
ウレシカ これはNASAのデザインですね。
サッカーフィールドがあり、
その中にアダムとイブがいて、
ボールがいくつか転がっていて、
「Happy Ending」。
これって、試合が終わったところで
ハッピーエンディング、
という意味なんじゃないでしょうか?
── ああー、なるほど!
そう言われて見れば、そう見える!
西田 だったら、
サッカーボールを持っててほしかったね。
そうしたら、わかるよ。
一同 ははははは。
── ウレシカさんが、インタビューを通じて
個人的に面識のあるかたというと‥‥。
ウレシカ ステファン・サグマイスターさん
深澤直人さん、カム・タンさん、
オーデッド・エーザさん、
エリック・シュピーカーマンさん‥‥。
あ、もちろん、
トム・ヴィンセントさんも(笑)。
── ナンド・コスタさんなんかも‥‥?
ウレシカ けっこう、知ってますね。
── ナンドさんのモチーフは、
何を表現されてると思います?
ウレシカ 緑はたぶん、サッカーフィールドで、
かつ、ブラジルのカラー。
この「手」のモチーフは
最近、ナンドさんがよく使うものです。
操り人形って、あるじゃないですか。
誰がコントロール権を握っているんだろう?
って、そういう意味なのかもしれない。
田中 ああ、なるほどね。
ウレシカ ブラジルは「サッカー強国」という
イメージがありますけど、
そのブラジルカラーを用いながらも、
「ほんとうは、誰がいちばん強いの?」とか、
「誰がブラジルサッカーをコントロールしてるの?」
「サッカーがブラジルをコントロールしてるのか?」
‥‥そんな、さまざま意味をこめて、
こういうデザインにしたのかもしれないですね。
西田 しかし、Tシャツひとつで、
こんなに語る機会って、
なかなかないですよね(笑)。
田中 永遠に語れそう(笑)。
── 韓国のミミ・ソンさんは、「心」と
韓国語で描いてらっしゃいます。
ウレシカ この場合の「心」は、「私の国」
くらいのニュアンスなんでしょうか。
ミミさんは、すごくパワフルで元気な女性。
つい最近、赤ちゃんが生まれたそうで、
だからたぶん、ハートも描かれている。
大橋歩さんのTシャツは、
私にはちょっとわからないんですけど‥‥。
── 日本の「波」と「太陽」ですね。
そして、背中には「富士山」。
田中 日本のシンボルをモチーフにしているから、
日本人には、たぶんすごくよくわかる(笑)。
ウレシカ ああ! なるほどね。
── たぶん、自分の国のTシャツは、
すぐわかるんでしょうね。
ハーマンズトラさんのTシャツも
解説がほしいところですが。
ウレシカ 彼は、ドイツの軍服なんかを作っていた
ファッションデザイナーです。
軍服作りを実際に学んだという経歴を持っていて、
すごくクレイジーな洋服を作るかたですね。
西田 これ、赤ちゃんですか?
ウレシカ そうそう。
クラッシュテストダミーの赤ちゃん。
西田 ああ、衝突実験のね、自動車の。
ちょっと、グロテスクな‥‥。
あ、これ、よく見ると
シートベルトをしてるみたいですね。
ウレシカ 南ドイツで生まれて、ロンドンで勉強して‥‥。
いろんな国で活躍しているデザイナーで
国籍も複雑なんですが、とても
自由でアグレッシブなデザインをしますよね。
── それは、いろんな国で暮らしたという経験が
活かされているんでしょうか?
ウレシカ 常にそうだとは言いきれないと思います。
クラインダイサムアーキテクツのTシャツには、
「Let’s foreign」と書いてありますけど、
これは、彼ら自身が、
日本に本拠地を置く自分たちのことも含めて、
ジョークにしてるという感じですね。
西田 これ、どういう意味にとればいいんですか?
「外国人でいよう」っていう意味?
「外国へ行こう」っていう意味?
ウレシカ ちょっと微妙ですね。
「Let’s」が、正しい文法で使われてない。
── Tシャツ背中のプリントで、
答えらしいことがわかるんですが、
カタカナで「ガイジン上等!!!」、と。
西田 やっぱり!
そんなニュアンスだよね。
── それと、モチーフが
抹茶をたてる道具と、イギリスのティーカップ。
それで、「ティー」シャツ、という(笑)。
田中 Tea-シャツ、なんだ(笑)。
ウレシカ 言葉の遊びですよね。
でも、ウスマンさんのTシャツなんて、
見ためだけで国籍を当てるのは
難しいと思いますよ。
── あと、カム・タンさんなんかのも。
田中 これは、かわいいですよね。
ウレシカ ね、かわいい。
オーデッドさんのデザインなんかも、
ほんとうにおもしろい。
ヘブライ文字って、あんまり見かけないし、
文字自体がすごく実験的なので、
実際には読めないんじゃないかと思うんですけれど。
── オーデッドさんは、
立体物なども手がけていますよね。
ウレシカ はい。
このタイポグラフィのかたちを3Dにして、
それがなおかつ、虫に見えるようなオブジェを
作ったりとかしているんですよ。
本国のイスラエルでは、かなりの有名人です。
西田 いま、ひとつひとつを眺めて感じたんですが、
今回のTシャツ、「ほぼ日」でやるにしては
ものすごくデザインが「とがって」ますよね。
これ、ほんとに「ほぼ日」なのかな? って。
でも、だからこそ、おもしろいんです。
こういうところに、乗り出してきたんだ、という。
── やはり、いろんなフィールドで
活躍されているかたがたなので、
いわゆるTシャツ然としたTシャツ、って
あまり出てきてないですよね。
西田 その点、やはりいちばん大きいなと思うのは、
さきほども言ったように、
境界線が曖昧になってきていることですよね。
デザインさえしっかりしていれば、
たとえば「Tシャツ」という束ねかたをしたときにも、
さまざまな肩書きの人たちが、
一カ所に集まることができる。
田中 そして、
デザイナーのことをあまり知らなくても
純粋に「これがいい!」と思って
手にとってしまうことのできるのが、T-1ですしね。
西田 T-1のシステムが、
それを成立させているんですよ。
ちゃんと、続けていける。
ヘンな言い方ですけど、商売にならなければ
やってはいけないと思うんです。
歌って盛りあがって終わり、じゃダメ。
作った人にも、きちんとインセンティブを払って、
買った人にも満足をあたえることができて‥‥。
ウレシカ とくに、優勝したTシャツを買った人には
いちばんになった喜びみたいな、
ちょっとしたギャンブル性もありますしね。
西田 だから、大切なのはシステムなんだね、さすがだな、
というのが、僕の結論。

それなのに、デザイン的に
「とがった」ことをやれる人間を
これだけ集められている。

その点が、すごいなと思います。

<続きます>

2006/6/19 月曜日

座談会「優勝するのは、どれだ!?」前編

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建築の分野から、
『Casa BRUTUS』副編集長・西田善太さん。
広告の専門家、
『宣伝会議』編集長の田中里沙さん。
デザイン・アート関連のウェブマガジン
『Pingmag』編集長の、ウレシカさん。

そんな、各界を代表する
3名のスペシャリストにお集まり頂き、
今回のT-1ワールドカップについて、
自由に語り合ってもらいました。

本日から3回に分けて、
ほとんどぜんぶ、お届けします。

なお、おさんかたのプロフィールについては
こちらをごらんください。

それでは、どうぞ!

鼎談
鼎談

── 本日は、おさんかたにお集まり頂いて、
最終的には、チャンピオンを予想するところまで
お話が発展していったらと思うのですが、
まず、ざっとTシャツをごらん頂いて、
みなさんの第一印象を、お聞かせください。
田中 参加デザイナーの数も増えましたし、
どのTシャツを選んでいいのか、
今回はますます悩ましいですよね。
自分の国のデザイナーのTシャツを着て、
自分の国を応援しようっていうのが
コンセプトのひとつとして、あるんですよね?
── そうなんです。
西田 今年は建築家にアプローチしていますね。
青木淳さんと、クライン ダイサム アーキテクツ
そしてウスマン・ハックさんの3組。
── 『Casa BRUTUS』副編集長である西田さんが
青木淳さんのTシャツをごらんになってみて、
どんな感想を抱かれましたか?
西田 なんといいますか、
青木さんらしいな、と。
── どのあたりが、でしょうか?
西田 あまり過度に、いじっていない。
でもこれ、ボディの裏側まで見ないと
わからないんじゃないですか?

線が、裏まで入ってますよね。
この線は、糸のつもり?
── さすがに鋭い! そうなんです。
ちなみに、そのTシャツには、
「ステッチド」という名前がついています。
西田 建築的なTシャツ、と
言えないこともないですけど、
それよりも、青木さんて
ちょっと「いたずら心」があるんだと思います。

おどろかせすぎないというか
ほとんど白いTシャツなんですけれど、
でも、単純なところに落としていません。
田中 そうですね、見れば見るほど。
── ウレシカさんの第一印象は、どうですか?
ウレシカ Tシャツをパッと見たときに
そのデザイナーがどの国の出身なのか、
なんとなくわかるところが、おもしろい。

あと、多くのデザイナーが、
Tシャツを白地にしてるじゃないですか。
いろんな肩書きのかたがいらっしゃいますけど、
白地のうえにデザインを載せていく、というのは
ひとつのデザインアプローチとしてあるのかな、
と思いました。
── 今回は、参加デザイナーが代表する
国の数もさることながら、その職業も千差万別です。
ウレシカ いろんな角度からのデザインが見られて、
ほんとうに楽しいですよ。
キンガさんのショパンのTシャツなんか、
まさにクレイジーなアイデア(笑)。
ハーマンズトラさんのTシャツは、
彼の要素がギュっと凝縮されています。
田中 ファンクスタジオのTシャツも、
すごくおもしろいですよね。
ウレシカ 昔のアディダスのデザインに似ていますね。
以前、わたしの弟が、
こんなTシャツをよく着ていましたよ。

でも、これだけのデザイナーを、
よく集めることができたなぁって思います。
── T-1には、勝ち負けが存在するのですが、
そういった意味で言うと、勝負のポイントは
どのへんになると思いますか?
ウレシカ 今回のT-1は、サッカーW杯と
開催期間がおなじ、ということもあるし
見ている側としては
自分の国の代表デザイナーを応援しよう、
というような気分があると思います。
作る側のほうも、みなさんすごく
Tシャツにメッセージを込めていて、
それをかたちに落とし込んでいますよね。
田中 そうですね。
ウレシカ だから、そのメッセージを、
買う人がどう受け止めるのか、
どのTシャツに、一票を投じるのか。
今年のT-1では、そういった部分も
勝負のゆくえを左右しそうですよね。
── なるほど、なるほど。
田中 昨年の第1回から参加しているかたも、
今回のT-1にかける「思い」が
いっそう強くなっている感じがします。
西田 ひとつ、お聞きしたいんですけれど、
今回のテーマに決めたとき、
どんな基準でみんながTシャツを選ぶだろうと
想像していたんですか?
── 自分の国のデザイナーを応援したい、
という気持ちも強いと思いますが、
でもやはり、最後はTシャツの「デザイン勝負」に
なってくるのではないか、と予想しています。
西田 ほう‥‥そうですか。
デザイナー同士の闘いなんですね、要は。
── もちろん、出身国のことまで含めて選ぶ人も、
純粋にこのデザインを応援したい、
といって選ぶ人も、
どちらもいらっしゃるとは思うのですが‥‥。
西田 いちばん売れたデザイナーが優勝するという
T-1のルールが、とても素晴らしいですよね。
というのも、みんながみんな、
デザイナーの名前で選ぶわけじゃない。
きちんと、デザインで選ぶことができる。

その構造が、T-1の素晴らしさであり、
おもしろいところなんじゃないでしょうか。
田中 まさに、そうですね。
西田 たとえば、街で同じTシャツを着た人と
出会ってしまったりとか、ありそうじゃないですか。
デザイナーも、そのあたり葛藤がありますよね。
Tシャツが「かぶって」しまったら
イヤなんだけれども、
でもやっぱり、多くの人に買ってほしいという(笑)。
── そこで、かぶってもイヤじゃないTシャツって
どんなものなんだろうって、
みなさん、きっと考えている思うんです。
田中 同じTシャツに投票した、ということで
共感することができたら、楽しいですよね。
ああ、あなたもこのTシャツに1票入れたのね、
みたいな連帯感というか。
── 田中さんは、T-1と
他のTシャツのイベントで
なにか違うところがあるとしたら、
それは、どのあたりだと思いますか。
田中 昨年の第1回T-1を見ていて、
あらためて、Tシャツって「メディア」なんだな、
ということを認識しました。
そして、どの柄にするか、
どんなものを良しとして着るのか、といった部分で、
普通の洋服を選ぶときよりも、
Tシャツを選ぶときのほうが、
自分を試されているようなところがありますよね。
西田 うん、うん。
田中 だから、T-1を見ていると、
自分だったらどれを選ぶか考えるでしょうし、
あるいは、あの人ならどれを選ぶのか、
すごく知りたくなってきます。

そんなところに、
底知れぬ興味を持ちますね。
ウレシカ 去年の場合は、「これを買いたい!」という
判断が中心だったと思うんですけど、
今回は、デザイン性に加えて
メッセージ性も高いですから、
よけいに、そういうことが気になりそう。
── そのことを踏まえながら、
田中さんの気になるTシャツは、どれですか?
田中 うーん、このなかから1枚を選びだすのって、
すごく、難しいですけど‥‥。

この、深澤直人さんのTシャツは、
日の丸がバラでできていて、しかもサッカーボール。
さまざまな要素が凝縮されているんですね。
西田 ああー、そうなんだ!
── Tシャツの名前も「バラ色」です。
田中 おとなの「応援心」みたいなのが、
見てとれるようですね(笑)。
── ウレシカさんの目から見ると
またちがった感想がありそうですけど?
ウレシカ そうですねぇ‥‥。
エリック・シュピーカーマンさんが、
サッカー寄りのデザインにした理由は、
今回のW杯のホスト国が
彼の出身国であるドイツだということに
大きく影響されてるんじゃないかな、と思います。

真面目でシンプルなんだけど、
おもしろみがあるデザインですよね。
── おお、分析的なご意見ですね。
ウレシカ 今回の参加デザイナーのうち、
何人かを直接、知っているんです。
だから、それぞれのパーソナリティが表れているな、
と思うTシャツも、いくつかありますね。

たとえば、ウスマン・ハックさん。
彼は、実験的なデザインに興味があり、
テクノロジーが大好きで‥‥。
きっと、すごく悩んでこのデザインにしたんだろう、
ということが、よくわかります。
小さなツブが描いてありますけど、
それをマジックペンで塗りつぶしていくと、
また違うデザインができあがるというシカケとか、
ウスマンさんの性格がよく表れていますよね。
── そうなんですか。
ウレシカ 自分のことを建築家と呼んではいますが、
実際に彼がやっていることは
そこから飛躍していて、
電磁場を作ってみたりとか、
技術を使って匂いを発生させたり。
田中 西田さんも、おもに建築や
プロダクトデザインの分野で
お知り合いのデザイナーも多いですよね。

西田 ええと‥‥、取材でお話ししたことがあるのは、
深澤直人さん、秋山具義さん、青木淳さん、
祖父江慎さん佐藤卓さん‥‥。
田中 それらのかたがたの
Tシャツをご覧になって、いかがですか?
西田 はじめ、深澤さんのデザインは
原子とか、その類いのモチーフだと思ってました。
ちょうど量子論の本を読んでいたので、
あ、いまそういうのが来てるんだ、って(笑)。
佐藤卓さんのデザインも「104.5°」だし、
そうか、これからは理系の時代なんだ!
と、思い込んでいたので、
バラと聞いたときには、びっくりしました(笑)。
── そうですか(笑)。
西田 昨年、卓さんが携帯電話をデザインしたとき、
一緒にパネルディスカッションをしたんですが、
話をしていて、おもしろくてたまらなかったんです。

今回の「104.5°」のデザインも、
かなり興味をそそられますが、
このTシャツを着ていて、その意味を問われたときに、
きちんと説明できなきゃマズイなぁ、と。
だから、購入ボタンをクリックするのに
勇気のいるTシャツなんじゃないでしょうか(笑)。
一同 ははははは。
── 深澤さん、佐藤卓さん、それに
青木淳さんが参加しているから‥‥。
西田 今回は、『Casa BRUTUS』的にも(笑)、
悩みながらも、楽しめそうですね。

でも、まず目についたのは、
祖父江さんや可士和さんのTシャツかなぁ。
あと、もちろん秋山具義さんのも。
ただ、具義さんは
青木淳さんに自宅を建ててもらってるわけだから、
せめて、家にいるときくらいは、
自分のTシャツではなく
青木さんのTシャツを着るべきだと思います(笑)。

<続きます>

2006/6/16 金曜日 次のページ »