── |
今回のT-1には、世界13カ国から
デザイナーが参加しているのですが、
いわゆる「東京のデザイン」というものについて、
みなさん、どう感じていますか? |
田中 |
日本の広告に関していうと、
今年、NYのクリオ賞を日本の企業が受賞したり、
そんな動きが、すこしずつ、出てきました。
傾向からいいますと、
派手ではなく、細かなワザを効かせた広告が、
海外から注目されてきていますね。
『宣伝会議』の編集部にも
オランダやスウェーデンなどから、
日本のクリエイターと会う場を作ってほしい、
という依頼が来たりもしています。
飛び込み営業的なので、
そこまで世界に日本の情報が伝わっているのかーと
驚くとともに、嬉しくなります。
|
西田 |
建築に限っていえば、
丹下健三さんや磯崎新さんをはじめ、
昔から海外に出ていってますので、
いま、日本がとくに注目されている、
というわけではありません。
でも、その後、安藤忠雄さんのように
商業建築からキャリアを積んだ人たちが出てきて‥‥。
そしていまは、30代から60代までの建築家が
渾然一体となって、争い、協力しあっている状況。
ですから、建築家を参加者に選んだのは、
おもしろい試みだと思いましたね。 |
── |
ふだんは立体物を作っている建築家が
Tシャツという2次元のキャンバスに
どんなデザインを描くのか、
僕らも、すごく楽しみにしていました。 |
西田 |
それに加えて、いまは、たとえば
佐藤可士和さんをはじめ
おもに2次元の分野で活躍されていたかたが
建築の方面にまで、活動の場を広げようとしている。
デザイン分野間の境界線が、
曖昧になってきているんじゃないかなぁ。 |
田中 |
領域を超えて活躍する人が注目され、
支持されていますよね。 |
西田 |
デザインに関わる人たちにとって、
活躍する場所の線引きが、薄れてきている。
とくに90年代以降、専門家以外の人たちが
グラフィックをしたり、本をつくったり‥‥
そういうことができるようになった点が、
東京のおもしろいところだと思います。 |
── |
なるほど。 |
西田 |
逆にいうと、以前は
たとえばグラフィックなら
グラフィックデザイナーだけのものだったのに、
いまは、そうではなくなっているという
厳しさもあります。
たとえば、プロダクトデザイナーが
Tシャツをデザインするなんて、
10年前には考えられなかったし、
たとえ作ったとしても、
誰も見向きもしなかったと思います。
それを束ねるメディアも、なかった。 |
── |
確かに、そうかもしれませんね。 |
西田 |
いろんな背景を持つ人たちが、
ただ、「Tシャツ」というルールのもとで闘う‥‥。
だから「Tシャツ」なんだ、とも言えますよね。
誰にも有利じゃないですからね、これは。 |
田中 |
そうそう。 |
西田 |
しかも、見ている側の職業や年齢、
そして国籍さえもさまざまだから、
SMAPの広告作ったと言っても、
全体には、通用しない。
佐藤可士和という名前でさえ、
ほとんど関係ないところが、すごい。 |
田中 |
去年は、「みんなが着たくなるTシャツ」
というテーマでしたから、
作る側も、「みんな、何が着たいんだろう」
という気持ちから入ったように思います。
でも今回は、より「デザイナー魂」を感じるというか、
一方で「こういうTシャツが、かっこいいんだよ」
「こういうTシャツを、着てほしいんだ」という思いと、
他方で「とはいえ、選んでほしいな」みたいな、
その葛藤があるだろうと思うんですね。 |
── |
はい。 |
田中 |
ですから、今回のT-1には
そうした部分に折り合いをつけたところで
みなさん、かたちにしたのかな、
という感想を持っています。
だから、よけいに難しい感じもするのですが、
見ている側はいろいろ想像(妄想)できて、
楽しいですよね。
可士和さん、今回こうなのか、とか
箭内さん、こう来たかー、みたいな。
意外な感じを受けたTシャツも、ありましたね。 |
── |
箭内さんのTシャツ、意外でしたか? |
田中 |
はい、けっこう意外でした。 |
西田 |
これ、どういう意味なんですか? |
── |
「オレココT」という名前で‥‥。 |
西田 |
あ、心臓のところに、日本の地図。 |
── |
それに加えて、
海外へ行った時に、あなたの国は?
と聞いて、指さしてもらおう、という。 |
西田 |
なるほど。それだったら、
国境線が変わるたびごとに
作り直してほしいですよね。 |
田中 |
そうですね(笑)。 |
西田 |
あ、これ3年前のTシャツだねってわかる。
この国、いまないじゃん、みたいに(笑)。 |
田中 |
秋山具義さんと青木克憲さんは
サッカーが大好きだから、
応援する気持ちまんまんで、
こんなビジュアルにしたのかなー。 |
── |
ジャパンブルーを出してきたのは、
大橋歩さんだけでした。 |
田中 |
逆に、他の日本人デザイナーが
出さなかったのって、意外ですよね。 |
── |
白地のTシャツが多いことついては、
何か理由がありそうですか? |
西田 |
うーん、勝負に出るとなると、
白だったりするんじゃないかな?
青木(淳)さんなんか、
もしかしたら、考えてたかもね。
いろいろなTシャツが出てくるだろうから、
結局いちばん目立つのは白なんじゃないかって。 |
── |
サイラスさんのイラスト、
これって、衛星に乗ってる‥‥。
デザインといっしょに届いたメッセージには
「Happy Ending」と入っていたのですが、
これはどんな意味なんでしょうか? |
ウレシカ |
これはNASAのデザインですね。
サッカーフィールドがあり、
その中にアダムとイブがいて、
ボールがいくつか転がっていて、
「Happy Ending」。
これって、試合が終わったところで
ハッピーエンディング、
という意味なんじゃないでしょうか? |
── |
ああー、なるほど!
そう言われて見れば、そう見える! |
西田 |
だったら、
サッカーボールを持っててほしかったね。
そうしたら、わかるよ。 |
一同 |
ははははは。 |
── |
ウレシカさんが、インタビューを通じて
個人的に面識のあるかたというと‥‥。 |
ウレシカ |
ステファン・サグマイスターさん、
深澤直人さん、カム・タンさん、
オーデッド・エーザさん、
エリック・シュピーカーマンさん‥‥。
あ、もちろん、
トム・ヴィンセントさんも(笑)。 |
── |
ナンド・コスタさんなんかも‥‥? |
ウレシカ |
けっこう、知ってますね。 |
── |
ナンドさんのモチーフは、
何を表現されてると思います? |
ウレシカ |
緑はたぶん、サッカーフィールドで、
かつ、ブラジルのカラー。
この「手」のモチーフは
最近、ナンドさんがよく使うものです。
操り人形って、あるじゃないですか。
誰がコントロール権を握っているんだろう?
って、そういう意味なのかもしれない。 |
田中 |
ああ、なるほどね。 |
ウレシカ |
ブラジルは「サッカー強国」という
イメージがありますけど、
そのブラジルカラーを用いながらも、
「ほんとうは、誰がいちばん強いの?」とか、
「誰がブラジルサッカーをコントロールしてるの?」
「サッカーがブラジルをコントロールしてるのか?」
‥‥そんな、さまざま意味をこめて、
こういうデザインにしたのかもしれないですね。 |
西田 |
しかし、Tシャツひとつで、
こんなに語る機会って、
なかなかないですよね(笑)。 |
田中 |
永遠に語れそう(笑)。 |
── |
韓国のミミ・ソンさんは、「心」と
韓国語で描いてらっしゃいます。 |
ウレシカ |
この場合の「心」は、「私の国」
くらいのニュアンスなんでしょうか。
ミミさんは、すごくパワフルで元気な女性。
つい最近、赤ちゃんが生まれたそうで、
だからたぶん、ハートも描かれている。
大橋歩さんのTシャツは、
私にはちょっとわからないんですけど‥‥。 |
── |
日本の「波」と「太陽」ですね。
そして、背中には「富士山」。 |
田中 |
日本のシンボルをモチーフにしているから、
日本人には、たぶんすごくよくわかる(笑)。 |
ウレシカ |
ああ! なるほどね。 |
── |
たぶん、自分の国のTシャツは、
すぐわかるんでしょうね。
ハーマンズトラさんのTシャツも
解説がほしいところですが。 |
ウレシカ |
彼は、ドイツの軍服なんかを作っていた
ファッションデザイナーです。
軍服作りを実際に学んだという経歴を持っていて、
すごくクレイジーな洋服を作るかたですね。 |
西田 |
これ、赤ちゃんですか? |
ウレシカ |
そうそう。
クラッシュテストダミーの赤ちゃん。 |
西田 |
ああ、衝突実験のね、自動車の。
ちょっと、グロテスクな‥‥。
あ、これ、よく見ると
シートベルトをしてるみたいですね。 |
ウレシカ |
南ドイツで生まれて、ロンドンで勉強して‥‥。
いろんな国で活躍しているデザイナーで
国籍も複雑なんですが、とても
自由でアグレッシブなデザインをしますよね。 |
── |
それは、いろんな国で暮らしたという経験が
活かされているんでしょうか? |
ウレシカ |
常にそうだとは言いきれないと思います。
クラインダイサムアーキテクツのTシャツには、
「Let’s foreign」と書いてありますけど、
これは、彼ら自身が、
日本に本拠地を置く自分たちのことも含めて、
ジョークにしてるという感じですね。 |
西田 |
これ、どういう意味にとればいいんですか?
「外国人でいよう」っていう意味?
「外国へ行こう」っていう意味? |
ウレシカ |
ちょっと微妙ですね。
「Let’s」が、正しい文法で使われてない。 |
── |
Tシャツ背中のプリントで、
答えらしいことがわかるんですが、
カタカナで「ガイジン上等!!!」、と。 |
西田 |
やっぱり!
そんなニュアンスだよね。 |
── |
それと、モチーフが
抹茶をたてる道具と、イギリスのティーカップ。
それで、「ティー」シャツ、という(笑)。 |
田中 |
Tea-シャツ、なんだ(笑)。 |
ウレシカ |
言葉の遊びですよね。
でも、ウスマンさんのTシャツなんて、
見ためだけで国籍を当てるのは
難しいと思いますよ。 |
── |
あと、カム・タンさんなんかのも。 |
田中 |
これは、かわいいですよね。 |
ウレシカ |
ね、かわいい。
オーデッドさんのデザインなんかも、
ほんとうにおもしろい。
ヘブライ文字って、あんまり見かけないし、
文字自体がすごく実験的なので、
実際には読めないんじゃないかと思うんですけれど。 |
── |
オーデッドさんは、
立体物なども手がけていますよね。 |
ウレシカ |
はい。
このタイポグラフィのかたちを3Dにして、
それがなおかつ、虫に見えるようなオブジェを
作ったりとかしているんですよ。
本国のイスラエルでは、かなりの有名人です。 |
西田 |
いま、ひとつひとつを眺めて感じたんですが、
今回のTシャツ、「ほぼ日」でやるにしては
ものすごくデザインが「とがって」ますよね。
これ、ほんとに「ほぼ日」なのかな? って。
でも、だからこそ、おもしろいんです。
こういうところに、乗り出してきたんだ、という。 |
── |
やはり、いろんなフィールドで
活躍されているかたがたなので、
いわゆるTシャツ然としたTシャツ、って
あまり出てきてないですよね。 |
西田 |
その点、やはりいちばん大きいなと思うのは、
さきほども言ったように、
境界線が曖昧になってきていることですよね。
デザインさえしっかりしていれば、
たとえば「Tシャツ」という束ねかたをしたときにも、
さまざまな肩書きの人たちが、
一カ所に集まることができる。 |
田中 |
そして、
デザイナーのことをあまり知らなくても
純粋に「これがいい!」と思って
手にとってしまうことのできるのが、T-1ですしね。 |
西田 |
T-1のシステムが、
それを成立させているんですよ。
ちゃんと、続けていける。
ヘンな言い方ですけど、商売にならなければ
やってはいけないと思うんです。
歌って盛りあがって終わり、じゃダメ。
作った人にも、きちんとインセンティブを払って、
買った人にも満足をあたえることができて‥‥。 |
ウレシカ |
とくに、優勝したTシャツを買った人には
いちばんになった喜びみたいな、
ちょっとしたギャンブル性もありますしね。 |
西田 |
だから、大切なのはシステムなんだね、さすがだな、
というのが、僕の結論。
それなのに、デザイン的に
「とがった」ことをやれる人間を
これだけ集められている。
その点が、すごいなと思います。 |