T-1 WORLD CUP » 座談会「優勝するのは、どれだ!?」前編




座談会「優勝するのは、どれだ!?」前編

date_0616.gif

建築の分野から、
『Casa BRUTUS』副編集長・西田善太さん。
広告の専門家、
『宣伝会議』編集長の田中里沙さん。
デザイン・アート関連のウェブマガジン
『Pingmag』編集長の、ウレシカさん。

そんな、各界を代表する
3名のスペシャリストにお集まり頂き、
今回のT-1ワールドカップについて、
自由に語り合ってもらいました。

本日から3回に分けて、
ほとんどぜんぶ、お届けします。

なお、おさんかたのプロフィールについては
こちらをごらんください。

それでは、どうぞ!

鼎談
鼎談

── 本日は、おさんかたにお集まり頂いて、
最終的には、チャンピオンを予想するところまで
お話が発展していったらと思うのですが、
まず、ざっとTシャツをごらん頂いて、
みなさんの第一印象を、お聞かせください。
田中 参加デザイナーの数も増えましたし、
どのTシャツを選んでいいのか、
今回はますます悩ましいですよね。
自分の国のデザイナーのTシャツを着て、
自分の国を応援しようっていうのが
コンセプトのひとつとして、あるんですよね?
── そうなんです。
西田 今年は建築家にアプローチしていますね。
青木淳さんと、クライン ダイサム アーキテクツ
そしてウスマン・ハックさんの3組。
── 『Casa BRUTUS』副編集長である西田さんが
青木淳さんのTシャツをごらんになってみて、
どんな感想を抱かれましたか?
西田 なんといいますか、
青木さんらしいな、と。
── どのあたりが、でしょうか?
西田 あまり過度に、いじっていない。
でもこれ、ボディの裏側まで見ないと
わからないんじゃないですか?

線が、裏まで入ってますよね。
この線は、糸のつもり?
── さすがに鋭い! そうなんです。
ちなみに、そのTシャツには、
「ステッチド」という名前がついています。
西田 建築的なTシャツ、と
言えないこともないですけど、
それよりも、青木さんて
ちょっと「いたずら心」があるんだと思います。

おどろかせすぎないというか
ほとんど白いTシャツなんですけれど、
でも、単純なところに落としていません。
田中 そうですね、見れば見るほど。
── ウレシカさんの第一印象は、どうですか?
ウレシカ Tシャツをパッと見たときに
そのデザイナーがどの国の出身なのか、
なんとなくわかるところが、おもしろい。

あと、多くのデザイナーが、
Tシャツを白地にしてるじゃないですか。
いろんな肩書きのかたがいらっしゃいますけど、
白地のうえにデザインを載せていく、というのは
ひとつのデザインアプローチとしてあるのかな、
と思いました。
── 今回は、参加デザイナーが代表する
国の数もさることながら、その職業も千差万別です。
ウレシカ いろんな角度からのデザインが見られて、
ほんとうに楽しいですよ。
キンガさんのショパンのTシャツなんか、
まさにクレイジーなアイデア(笑)。
ハーマンズトラさんのTシャツは、
彼の要素がギュっと凝縮されています。
田中 ファンクスタジオのTシャツも、
すごくおもしろいですよね。
ウレシカ 昔のアディダスのデザインに似ていますね。
以前、わたしの弟が、
こんなTシャツをよく着ていましたよ。

でも、これだけのデザイナーを、
よく集めることができたなぁって思います。
── T-1には、勝ち負けが存在するのですが、
そういった意味で言うと、勝負のポイントは
どのへんになると思いますか?
ウレシカ 今回のT-1は、サッカーW杯と
開催期間がおなじ、ということもあるし
見ている側としては
自分の国の代表デザイナーを応援しよう、
というような気分があると思います。
作る側のほうも、みなさんすごく
Tシャツにメッセージを込めていて、
それをかたちに落とし込んでいますよね。
田中 そうですね。
ウレシカ だから、そのメッセージを、
買う人がどう受け止めるのか、
どのTシャツに、一票を投じるのか。
今年のT-1では、そういった部分も
勝負のゆくえを左右しそうですよね。
── なるほど、なるほど。
田中 昨年の第1回から参加しているかたも、
今回のT-1にかける「思い」が
いっそう強くなっている感じがします。
西田 ひとつ、お聞きしたいんですけれど、
今回のテーマに決めたとき、
どんな基準でみんながTシャツを選ぶだろうと
想像していたんですか?
── 自分の国のデザイナーを応援したい、
という気持ちも強いと思いますが、
でもやはり、最後はTシャツの「デザイン勝負」に
なってくるのではないか、と予想しています。
西田 ほう‥‥そうですか。
デザイナー同士の闘いなんですね、要は。
── もちろん、出身国のことまで含めて選ぶ人も、
純粋にこのデザインを応援したい、
といって選ぶ人も、
どちらもいらっしゃるとは思うのですが‥‥。
西田 いちばん売れたデザイナーが優勝するという
T-1のルールが、とても素晴らしいですよね。
というのも、みんながみんな、
デザイナーの名前で選ぶわけじゃない。
きちんと、デザインで選ぶことができる。

その構造が、T-1の素晴らしさであり、
おもしろいところなんじゃないでしょうか。
田中 まさに、そうですね。
西田 たとえば、街で同じTシャツを着た人と
出会ってしまったりとか、ありそうじゃないですか。
デザイナーも、そのあたり葛藤がありますよね。
Tシャツが「かぶって」しまったら
イヤなんだけれども、
でもやっぱり、多くの人に買ってほしいという(笑)。
── そこで、かぶってもイヤじゃないTシャツって
どんなものなんだろうって、
みなさん、きっと考えている思うんです。
田中 同じTシャツに投票した、ということで
共感することができたら、楽しいですよね。
ああ、あなたもこのTシャツに1票入れたのね、
みたいな連帯感というか。
── 田中さんは、T-1と
他のTシャツのイベントで
なにか違うところがあるとしたら、
それは、どのあたりだと思いますか。
田中 昨年の第1回T-1を見ていて、
あらためて、Tシャツって「メディア」なんだな、
ということを認識しました。
そして、どの柄にするか、
どんなものを良しとして着るのか、といった部分で、
普通の洋服を選ぶときよりも、
Tシャツを選ぶときのほうが、
自分を試されているようなところがありますよね。
西田 うん、うん。
田中 だから、T-1を見ていると、
自分だったらどれを選ぶか考えるでしょうし、
あるいは、あの人ならどれを選ぶのか、
すごく知りたくなってきます。

そんなところに、
底知れぬ興味を持ちますね。
ウレシカ 去年の場合は、「これを買いたい!」という
判断が中心だったと思うんですけど、
今回は、デザイン性に加えて
メッセージ性も高いですから、
よけいに、そういうことが気になりそう。
── そのことを踏まえながら、
田中さんの気になるTシャツは、どれですか?
田中 うーん、このなかから1枚を選びだすのって、
すごく、難しいですけど‥‥。

この、深澤直人さんのTシャツは、
日の丸がバラでできていて、しかもサッカーボール。
さまざまな要素が凝縮されているんですね。
西田 ああー、そうなんだ!
── Tシャツの名前も「バラ色」です。
田中 おとなの「応援心」みたいなのが、
見てとれるようですね(笑)。
── ウレシカさんの目から見ると
またちがった感想がありそうですけど?
ウレシカ そうですねぇ‥‥。
エリック・シュピーカーマンさんが、
サッカー寄りのデザインにした理由は、
今回のW杯のホスト国が
彼の出身国であるドイツだということに
大きく影響されてるんじゃないかな、と思います。

真面目でシンプルなんだけど、
おもしろみがあるデザインですよね。
── おお、分析的なご意見ですね。
ウレシカ 今回の参加デザイナーのうち、
何人かを直接、知っているんです。
だから、それぞれのパーソナリティが表れているな、
と思うTシャツも、いくつかありますね。

たとえば、ウスマン・ハックさん。
彼は、実験的なデザインに興味があり、
テクノロジーが大好きで‥‥。
きっと、すごく悩んでこのデザインにしたんだろう、
ということが、よくわかります。
小さなツブが描いてありますけど、
それをマジックペンで塗りつぶしていくと、
また違うデザインができあがるというシカケとか、
ウスマンさんの性格がよく表れていますよね。
── そうなんですか。
ウレシカ 自分のことを建築家と呼んではいますが、
実際に彼がやっていることは
そこから飛躍していて、
電磁場を作ってみたりとか、
技術を使って匂いを発生させたり。
田中 西田さんも、おもに建築や
プロダクトデザインの分野で
お知り合いのデザイナーも多いですよね。

西田 ええと‥‥、取材でお話ししたことがあるのは、
深澤直人さん、秋山具義さん、青木淳さん、
祖父江慎さん佐藤卓さん‥‥。
田中 それらのかたがたの
Tシャツをご覧になって、いかがですか?
西田 はじめ、深澤さんのデザインは
原子とか、その類いのモチーフだと思ってました。
ちょうど量子論の本を読んでいたので、
あ、いまそういうのが来てるんだ、って(笑)。
佐藤卓さんのデザインも「104.5°」だし、
そうか、これからは理系の時代なんだ!
と、思い込んでいたので、
バラと聞いたときには、びっくりしました(笑)。
── そうですか(笑)。
西田 昨年、卓さんが携帯電話をデザインしたとき、
一緒にパネルディスカッションをしたんですが、
話をしていて、おもしろくてたまらなかったんです。

今回の「104.5°」のデザインも、
かなり興味をそそられますが、
このTシャツを着ていて、その意味を問われたときに、
きちんと説明できなきゃマズイなぁ、と。
だから、購入ボタンをクリックするのに
勇気のいるTシャツなんじゃないでしょうか(笑)。
一同 ははははは。
── 深澤さん、佐藤卓さん、それに
青木淳さんが参加しているから‥‥。
西田 今回は、『Casa BRUTUS』的にも(笑)、
悩みながらも、楽しめそうですね。

でも、まず目についたのは、
祖父江さんや可士和さんのTシャツかなぁ。
あと、もちろん秋山具義さんのも。
ただ、具義さんは
青木淳さんに自宅を建ててもらってるわけだから、
せめて、家にいるときくらいは、
自分のTシャツではなく
青木さんのTシャツを着るべきだと思います(笑)。

<続きます>

2006/6/16 金曜日