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糸井 |
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では、深澤さんの、
ふたつのデザインについて、
ご紹介していきましょうか。
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深澤 |
まずは、iPodがテーマのTシャツから見てみますと、
これは、心の声を聴くという、
非常に単純な発想からできたものです。
このパターンは、スピーカーの穴の
いちばん一般的なタイプのものをアイコンにして、
それを心臓(ハート)のあたりに持って来ました。
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糸井 |
デザインだけを見ていると、
よくわからない何かかがひそんでいるかんじがしますね。
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深澤 |
実際にこれを着て、iPodを使ったりすると、
関係がおもしろく立ち現れてくると思います。
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糸井 |
このスピーカーのアイコンですが、
フォーマットというものはあるんですか。
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深澤 |
これは、ブラウンというドイツのメーカーがつくった
スピーカーの形を、そのまま採用しました。
それがたぶん、スピーカーとしては
もっとも原型となる形を
してるんじゃないかなぁと思います。
点がパラパラとしてるように見えますが、
よくできたデザインなんです。
縦横の線がきれいに出ているし、大きさも非常にいい。
みんなが「スピーカーらしい」と思うフォルムで、
穴だけでそれを表現できるものを探すのは、
けっこう大変なことなんです。
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糸井 |
そして、もうひとつのデザインは
「みんなが着たいTシャツ」ですが、
これは、世界的発見と言えると思います。
仕事量が面積だとしたら‥‥究極ですね(笑)。
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深澤 |
一本の紐がここにあるだけ、というデザインです。
ふつうのTシャツが
一本の線があることによって、ちょっとかんじが変わる、
急におしゃれになる。
なんの変哲もないTシャツが
こんな一本の線で、
どうして変わっちゃうんだろう、ということを
やりたかったんです。
最後まで悩んで、いろいろ試行錯誤したんですけど、
結果的には、このようなかたちになりました。
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糸井 |
着地としては完璧ですね。
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深澤 |
じつはこれは、
モデルにTシャツを着させて
マジックで線を描いたんです。
それをそのままトレースして、デザインしました。
例えば、これはネックレスだと言ってしまうと、
そういう定義になってしまうので、言いたくないんです。
これは、ただの線だと。
ただの線だけど、その線がじつは、
Tシャツに強い効果を生む。
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糸井 |
この「ボコッ」となっているところは、
不慮の事故じゃないんですね。
鎖骨のあとだ。
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深澤 |
ええ。
ほんとのネックレスをイメージすると、
こんなに形が広くはならないんです。
いろんなバランスのパターンが考えられるんだけど、
やればやるほど、
考えたことが新鮮でなくなっていくから、
最初に本番で描いたものを
そのまま採用しました。
何度も描いて、比べてみると、
最初のものが強いんです。
瞬間芸というか、習字とおなじで、
あんまり練習しないほうがいい。
けれども図にのって、
3本線にするとどうなるだろう、
色をつけるとどうなるだろう、など、
いろいろやってしまいまして(笑)。
今回は一点のみの出品なので、
出せないんですけれどもね。
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糸井 |
惜しいね。
ほかも欲しくなります。
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深澤 |
久々に、いつもとは
別の筋肉を使う機会をいただきました。
でも、結局最後は
自分の筋肉で勝負したようなかんじです。
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糸井 |
自分の技じゃない限り、力は出ないですね。
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深澤 |
ほかの技も使ってやろうかな、
と思ってやったんだけど(笑)。
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糸井 |
たぶん、みんなそう思うんじゃないかなぁ。
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深澤 |
これは、いつもの仕事と違うんで、
最初は、ちょっと変なチャレンジを
してみたいという気がしまして、
なんと、キャラクターをつくったんですよ。
世にあるTシャツのことを考えたら、
メッセージのついたものと、
キャラクターのついたものの、
大きくふたつがあるんです。
僕はあんまり文字の書いてあるTシャツを
着ないタイプなので、
例えばポロやラコステみたいな
キャラで勝負しようとして、
あたらしいキャラクターまで考えたんです。
でも、それは僕の領域ではなかったんです。
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糸井 |
きっと、普段使ってる筋肉じゃないから、
太鼓判が押せないんですよね。
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深澤 |
そう、押せないんです!
それに、たとえば、
人間って、特別きれいな
観光地みたいなところ行くと
一斉に写真を撮りたくなるんですよね。
でも、そのとき撮った写真を見ると
ほとんどいいのがないんです。
いいものを見ると、自分がそうなりたくなる
という気持ちは誰もが持つんだけども、
じつは日常の何の変哲もない時間、
制約のない状況で、
ポン、と、歌をや俳句をつくったりしたほうが
いいものができたりするんです。
日常で生む、ということと、
僕のTシャツをつくるという課題は
よく似てると思ったんです。
ですから、あんまり特殊なことを
やっちゃいけないなと、思いました。
この考え方はいろんなデザインの方法があるなかの
ひとつのエレメントだと思いますけれども。
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糸井 |
キャラクターの路線から離れたときに、
すぐにこの「線」のアイデアが出たそうなんですが、
そういうことって、ポッと出るものなんですか。
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深澤 |
ポッと出ます。
ふだん、そんなことばかり考えているからでしょうね。
最適解というか、その状況に応じた解答を
できるだけ単純に出すということなんですが、
まあ、糸井さんのお仕事とも
似てると思います(笑)。
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糸井 |
そうですね。
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深澤 |
短い言葉で、すべての世界、宇宙のことを
言ってしまわなければいけないときには、
例えば、文字ひとつでも
扱い方がずいぶん違うんだろうと思います。
ピラミッドは
下から組むと台形にしかならないんです。
ピラミッドは、上から組まなくてはならないんです。
常に三角形になることは
みんなが知ってるでしょう。
なぜ世のなかの人というのは、
下から組みたがるのかなあ、
「石がそれだけしかないんでしょ」と言いたい。
石がそれだけしかないくせに、
ひらたい基礎をつくって積み上げたい、と言う。
だから2列目くらいで終わってしまうんです。
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糸井 |
それは企画書と
キャッチフレーズの関係に似ていますね。
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深澤 |
そのとおりです。
頂点だけ見ていれば、
石が3つあればとりあえずピラミッドになるんですよ。
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糸井 |
ピラミッドは、尖がっていないとダメですものね。
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深澤 |
僕のデザインしたTシャツが
みなさんにウケるという確証は、ありません。
僕がやってる工業デザインとは、やはり違って、
Tシャツは非常にエモーショナルなものだから、
そこまで僕は予測はできないです。
ただ、このTシャツが持つ波動のようなものが、
共鳴してうまく合えば、
すごく繁殖する可能性はあるとは思っています。
でも、いまの段階では、なかなかそこまで読めないですね。
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糸井 |
これは、一撃必殺みたいな試合です。
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深澤 |
そうなんです。「面!」と打ったら
もう、終わりですよ。
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糸井 |
今回の、このT-1には、いろんな選手たちがいます。
デザイナーの人たちというのは、ふだんは、
お互いをメディアを通して見たりするけれども、
同じ場所にいるという実感を持ってお互いを見ることは
少ないと思っていたんです。
コロッセアムで、横に集結しているデザイナーたちを、
僕は見たかったんです。
それまでは、デザインについて、
ひとりがそれぞれに闘っていたから。
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深澤 |
しかしいきなり、極端に、ぶつけましたね(笑)。
こんなにあからさまに横に並ぶことはないし、
しかも、与えられたフィールド(Tシャツ)が
単純だから、それだけ抽出されると思います。
僕は、ほかのメンバーの顔が
いつも頭に浮かんでました。
ヤツだったら、きっとこうだ、みたいな(笑)。
でも、僕はふだんは
グラフィック的なことはあまりやらないので、
ある意味で、フィールドが違うから
ちょっとだけ気持ちは楽だったと思います。
でも、依頼をいただいたのが
ほんとうに忙しいときだったので
忙しいときに、Tシャツのことばかりに
頭がいってしまっていました。
「この忙しいときに!」と思いながら
Tシャツを考えてた(笑)。
車を運転しても、何をしていても、
とにかくTシャツのことを考えていました。
やっぱりTシャツというものは、
からだが覚え込んでいるものなんですよね。
覚え込んだ記憶を
すべての人が共有してるという前提があるから
おもしろいんです。
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糸井 |
そういうものは、ほかにもあるので、
いつかまた、深澤さんには
いろいろとやっていただきたいなあ、と
思っています。
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深澤 |
また、よろしくお願いします。
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