 |
糸井 |
 |
トムは、今回のT-1出場者のなかで
唯一のウェブデザイナーであり、
唯一の外国人でもあります。
出身はロンドンですが、
パンクの時代はイギリスにいたんですか?
|
 |
トム |
セックス・ピストルズが出たのが1976年だから、
9歳か10歳ぐらいでした。
その次の年ぐらいに中学校に入って、
そのあたりの音楽の世界が見えてきた、という年代です。
とにかく、すごくおもしろいぞ、と思いましたよ。
セックス・ピストルズの
「God Save The Queen」や‥‥、
|
糸井 |
あのときに、セックス・ピストルズが着てた
女王のTシャツがあるでしょう。
あれは今、完全に作品として
価値になっちゃってますね。
|
トム |
ああ、あのTシャツ!
いやぁ、そうですよ。あのTシャツは、
ほんとうに何でもないものなんだけど、
すごかったんです。
いまのパンクファッションは
ものすごくおしゃれになってきていますが、
当時のセックス・ピストルズは、
こう言ってはナンですが、
ほんとうに汚かった。
それを、プロデューサーだった、
あのマルコム・マクラレンが
いちばん汚い奴らを選んで、売ってみせたんです。
イギリスのデザイン業界、
アート、音楽、とにかくすべてを
パンクというものが
完全にひっくり返したんです。
|
|

|
糸井 |
あんな小っちゃいムーブメントなのにね。
|
トム |
パンクは、僕が10歳ぐらいのころに
バーッと爆発的に広まっていったんですが、
その10年後ぐらいに、僕は美大に入ったんです。
パンクがブームを起こした、たった10年後に、
私たちは美大で文化としてパンクを勉強したんです。
パンクのことを論理的に
先生に教わって勉強してるんです。
|
糸井 |
すごいね、たった10年で。
もしかしたら、トムの仕事のなかに、
パンクの影響が、あるかもしれないなと
僕は思っていたんです。
|
トム |
ありますよ。
ティーンエイジャーのときは
いつも“Fuck You”でした(笑)。
|
糸井 |
パンクは、その後も形を変えて、
後の時代に影響を与えつづけていますね。
たとえば『トレイン・スポッティング』のような映画も、
当然、パンクがあったからこそだけど、
あそこにあるパンクは、もともとのものから
変化しています。
ここまでパンクが流れ着いてるなぁと、思いました。
イギリスのあるプロデューサーの考えたことが、
どんどん転がっていったんですね。
|
トム |
もとは、あのマルコム・マクラレンの、
ひらめきだけなんですよ。
パンクは、ひとりの人間に湧き出た、
完全なアート運動ですね。
1960年代のヒッピーが
「私は私の好きなやり方で行きます」
という流れを生み、
そこからパンクの、
「Fuck You」
「俺は自分でやるわ! どうでもいい!
関係ねえよ!」
というような、
基本的なフィロソフィーが出てきたんです。
「関係ねえよ!」は
そうとうショッキングでした。
でも、パンクのままでずっと生きていくのは、
つらいし、ちょっと無理です。
|
|

|
糸井 |
結局、死んじゃった奴らだけが
純粋にパンクなのであって、
生きてる人は、それを根底に持ちながら、
ぜんぜん違うものをつくっていくわけです。
トムにもそれを感じるから、改めて
「イギリスって、パンクの影響が大きいんだなぁ」と
思ったんです。
|
トム |
今回、T-1の僕のプロフィールには
「人間味のあふれる」というふうに
書いてあるでしょう。
それは、すごくうれしいんですよ。
やっぱり僕は、人間臭いのが好きだから。
音楽でも、何でもそう。
このジャンルが好き、というのではなく、
クラシックでもジャズでも、
おもしろいものはおもしろいんだけど、
やっぱり、人間臭いものが好きですね。
|
糸井 |
では、それぞれのTシャツについて、
うかがっていきましょうか。
|
トム |
では、まずは「iPodに似合うTシャツ」のほうから。
iPodは、「移動しながら楽しむ」ということが
まず基本にあると考えました。
そういう発想から、キリンとサルが生まれたんです。
晴れの日ではなく、雨の日に
歩いて、そして、踊っている、ふたつの動物。
最初にiPodのTシャツのモチーフができてから、
次に、もう一方の、
「みんなが着たいTシャツ」を考えたんです。
そうしたら、なぜかゾウとカメが浮かんできた。
これはゾウガメの駄洒落になっていることは、
そのときには気づきませんでしたが(笑)。
決して駄洒落から考えたのではないんですけれども、
でも、ゾウとカメの組み合わせは、
とてもいいと思ったんです。
|
|

|
糸井 |
うん、両方とも、
ふたつの動物のくみあわせが、とてもいいです。
晴れの日でなく、雨の日に踊るのも、いいですね。
今回のTシャツは、
買う人の数だけつくって、シリアルナンバーがついてきます。
つまり、ふつうの大量販売でドカッと売っているものより
「誰かが持ってる」という感じは
強いと思うんですよ。
|
トム |
注文した分だけつくるのは、おもしろいし、
そのひとつを、誰かが確かに持っているんだ、と
感じることができるのは、すごくうれしいです。
|
糸井 |
タグに、雨のことが書いてありますが?
|
トム |
このタグの文章を書いたのは、
夜中だったんだけど、
外が大雨だったんです。
単純に、それだけなんですよ。
|
糸井 |
単純に、それだけ。
その答え方は、パンクですねぇ。
じゃ、Tシャツに
○とか×とか、描いてあるのは?
|
トム |
とにかく、○は、いい。
キリンの模様にも近い。
iPodにもつながる図形です。
でも、×がね。
なぜ、×にしたのか。
意味は‥‥探してください。
|
糸井 |
はい。その答えもパンクでした(笑)。
買った人に、どんなふうに着てほしいですか?
|
トム |
ああ、それはタグのところに書いてありますよ。
Please wear with love.
「愛を込めて着てくださいね」と。
|
糸井 |
ここでトムがloveという言葉を入れた、
そのことは、大きいですね。
|
トム |
loveは、いつも大事ですよ。
|
|

|
糸井 |
僕ら日本人は、
簡単に「アイ・ラブ・ユー」と言いますからね。
loveという言葉の、その重さを知らないから。
トムがloveと言うようには、
きっと、僕たちは言えないんだろうと思います。
|
トム |
どの言語でもそうなのかもしれないけど、
日本語は日本語で、深いから、
きっと、愛とloveは違いますね。
with loveと
singing in the rain、
このふたつの気持ちで、
このTシャツを、たのしく着てください。
|