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糸井 |
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今回、Tシャツのコロシアムのようなものをつくろう
という話が持ち上がったときに、
ウェブデザインから、
誰か出てほしいな、と思ったんです。
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トム |
できあがった僕のTシャツは、結局、
ぜんぜんウェブらしくないデザインに
なりましたけれども(笑)。
僕は、実際に自分でTシャツをつくった経験が
ありませんでしたから、
お話をいただいたときは、まず、
どうしようか、と思いました。
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糸井 |
断ろう、という気持ちはありましたか?
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トム |
それはないです。
「とにかく、やる」、そう思いました。
正直言いまして、これはもう、好奇心ですよ。
だいたい出場者の顔ぶれがすごいでしょう。
自分の「緊張」から
いいものが出たりすることもあるだろう、
というような気持ちでしたね。
出場メンバーのなかで、たしかに
「ウェブデザイナー」は僕ひとりでしたが、
自分がウェブデザインをしていることと
今回のTシャツデザインとは、
あまり関係がないかもしれません。
もしかしたら、遠く、どこかで
関わっているかもしれませんが。
Tシャツをつくっているときでも、
クライアントを前にして仕事をしているときでも、
僕がなにかのプロジェクトを
進めるときのアプローチは、いつも同じで、
「スタイルを最初からもって取り組む」
ということはありません。
「僕自身」というものは関係がなくて、
その対象物、つまり、
TシャツならTシャツ、iPodならiPodが重要です。
「これは何だろう」という視点からはじめて、
そのことを中心につくっていくんです。
スタイルは特になくて、
その「もの」を理想的に、
その「もの」にいちばんふさわしい形にまとめる。
僕のデザインは、そういうことだと思っています。
Tシャツは、直接「人間」が着るものでしょう?
しかも、人に言われて着るものじゃなくて、
自分で選んで身につけることが圧倒的に多いわけです。
「自分という人」が着たくなるもの、
というところを、まず、考えました。
僕個人でいうと、Tシャツは、けっこう着ます。
でも、無地がほとんどかな。
ブランドやラベルに注目する考えは
僕にとってはぜんぜんおもしろさがない。
どちらかというと「その人に合う感じ」
というのを大切にしています。
だいたい仕事もそうなんですよ、僕は。
そのときそのときに合う雰囲気をつくろう、
という意識が大きいんだと思います。
とりあえず、まず、僕自身は
Tシャツを「無地が好き、ブランドはどうでもいい」
と、そういうふうに考えている。
さて、ほかはどうだろうか。
そう考えはじめてからは、
どこへ行ってもTシャツに目が行ってしまって、
しょうがなかったです。
たとえば、車の仕事をしていて、
アウディが気になるな、と思ったとします。
次に、アウディのショールームに行って
実際に現物を見てみます。
その後は、やたら、
町じゅうアウディだらけになってしまう。
いきなり、地球上に、アウディばかりが走ってる。
それと同じように、今回は、
町じゅうのみんなが、
Tシャツを着ているようになっちゃったんですよ。
歩くたびに、
「あっ、そういうのも、あり、か」
「ああいうのも、あり、か」
「えーっ、それは、ちょっとなぁ」
なんて、しばらく頭をかかえていました。
ある意味、とてもやりづらい素材です。
だって、世のなかに、Tシャツは多すぎる。
やろうと思えば、どんなものでもTシャツになるから、
それを「ひとつだけ」にするのは、
すごく難しかったです。
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糸井 |
途中で、ほかの出場者の顔が
チラついたりすることは?
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トム |
気になりましたし、かき立てられました。
でも、
「関係ないよ、関係ないよ、
僕は自分の好きなようにすりゃいい」と、
ずーっと自分にマントラのように唱えていました(笑)。
それに、このT-1には、審査員がいない。
「売ればいいんだ」というのが
とても大きなポイントだったと思います。
「売れればいい」と考えると、今度は
すごく飛んでる、変な、カッチイイものをつくったら、
みんなは「カッチイイ!」と言うかもしれないけど、
売れないかもしれない、と思ったり。
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糸井 |
でも、自分がつくりたくないものをつくるのは、
嫌だ、という気持ちになるでしょう?
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トム |
そうでなんです。それで今度は
「自分がかわいいと思っているものを
つくればいい」
となって、思考は巡りっぱなしでした。
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糸井 |
ウェブデザインは、最近新しくできた
デザインの分野のひとつですが、
例えば、グラフィックデザインの世界だったら、
弟子が先生のやり方を覚えて、という道筋が
できているから、
「デザインとは」というような前提が
きちんとあったりするけど、
ウェブはそうじゃないでしょう。
そういうことから生まれる
悪いことと良いことがあると思うんですが、
トムは、どう思う?
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トム |
うーん、おそらく、悪いことのほうが多いです。
たとえば、出版の世界を考えると、
印刷機が数百年前にできて
中国だと、もっともっと前にできていて、
出版技術、製本技術が磨き上げられてきた。
紙媒体を製品にすることは、
ほんとにすごく長い時間をかけて築かれたものでしょう。
1980年代ぐらいに入ってやっと、
デスクトップパブリシングのような言葉が現れてきて、
1980〜1990年代後半に、みんなが自分で
パソコンを使ってつくれるようになった。
当然、その人のセンスにもよるんだけど、それなりに、
きれいなものをつくることができるところまできた。
でも、ウェブって、成り立ちが正反対なんです。
先にDTPがはじまって、
デスクトップパブリッシングができるようになってから、
ウェブデザインが開拓されて、
プロがその上に入った、という感じなんです。
だから、プロのほうが、
「ちょっと待って、ちょっと待って」
「ほんとはこうなんだよ」
と、必死に言っている、という状態になっています。

外国の、たとえば、
英語ベースのウェブは、
全体のレベルがだいぶよくなってきていると思います。
それは、ウェブサイトを見ているユーザーの、
ユーザーって嫌な言葉だけど(笑)、
メディアとしてのウェブの使い方の文化が
できてきたからだと思います。
日本では、一方でブログやミクシーなど、
個人のウェブの世界ではかなり日本独特な、
影響のある「声」ができているんだけど、
商業のウェブの「声」はまだできていないんだな、
という気がします。
紙とウェブとでは
読んでる人の気持ちはぜんぜん違います。
ウェブは、「私はこのモニターに向かって読んでる」と、
文章を個人ベースで、
「私宛て」に感じたいと思うんです。
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糸井 |
ウェブのおかげで、本のほうの受け取り方も
変化をしてきていますね。
『電車男』が売れてるのは、
あれはほんとにウェブのせいだし。
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トム |
糸井さんの本も、そうだと思うんですよ。
『言いまつがい』は、きっと
Eメールのベースでつくっているでしょう。
いま、日本では、
ウェブの文章の世界と、本の文章の世界が
クロスしはじめているんです。
それがとてもおもしろいね。
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