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T-1出場者に糸井重里が訊く。
日本を代表する9人のデザイナーがT-1ワールドカップに集います。販売を前に、主宰者・糸井重里が出場者全員にお話をうかがいました。
佐藤卓(後編) プロフィールを見る プロフィールを見る
左手は右手を、右手は左手を求めている。

糸井 卓さんのふたつのTシャツは
人間アニマルプリントですが、
どちらも片手を使って、描いたり
テープを貼ったりしてデザインされたものです。
届かなくて、白く残っちゃっているところがあります。
 
佐藤 人間の身体(しんたい)の
制約ということに着目したときに、
「右手で届かない、からだの部分があるんだな」
ということに気づきました。
からだの柔らかい人は届くと思うんですけど、
届かないということも含めて、自分の身体なわけです。
やり進むうちに、自分の届く範囲とは
どのくらいなのかなと、
興味もわいてきました。
じつは、このTシャツをつくる過程を
ビデオに撮ってあるんです。
 
佐藤卓さんがTシャツをデザインする過程を
動画で見ることができます。
(動画に音声はついていません)
TAKU-2006
TAKU-2006-iPod
 
糸井 おお、すごい!
 
佐藤 このビデオはTシャツを着るために、
メガネをはずすところからはじまるんですよ。
僕とTシャツはそういう関係なのです。
着て、またメガネをかける。
かけないと見えないんでね。
 
まずは、Tシャツに印をつけました。
Tシャツを着て、
左手の届く範囲を確認してTシャツを脱ぎ、
新しいTシャツを着て、
右手で届く範囲を確認する。
右手担当のTシャツは、右手だけで描きます。
まずは右手先のいちばん長い中指にマジックをつけて、
ちょんちょんちょんちょん。
 
 
 
糸井 指だったのか!
 
佐藤 左手担当のTシャツは、左手で印をつけて、
左手でガムテープを貼る。
左手のTシャツは、左手が責任を持ってやるんです。
 
左手でテープを貼っていくうちに、
指先の皮がむけてきちゃってね。
左手って、ふだん使わないから、
もう、情けないこと情けないこと。
血とか、出てきちゃうんですよ。
 
糸井 それぞれの手が届かない空間ができることは、
安心感を与えますね。
全部届く人間だったら、なんだか
さみしいです。
 
佐藤 届かないところが、いいんです。
右手が左手に向かって、
「だからおまえが必要なんだ」
左手が右手に向かって
「だからおまえが必要なんだ」
と言ってるようなもんです。
届かない、空きのスペースは、
左手と右手では違うんですけれども。
 
糸井 ほんとだ。左と右が、違うんだ!
笑っちゃうね。
右のほうが動きがかたいんですね。
疲れているんでしょうか。
 
佐藤 (笑)あると思います。そのときの状態も
影響しているだろうし。
肩の上と下では、腕の伸ばし方によって
届く場所が違います。
それは、ふだんは腕が自然とやっていることなんです。
 
 
 
糸井 このTシャツは、卓さん自身を
ビデオに撮っておいた、ということまでも含めて、
とてもおもしろいです。
僕らも、卓さんも、
Tシャツに欲しかったのは物語性なんだろうな、と
思いました。
左右で素材を変えたのも、いいですね。
両方がテープというわけではない。
 
佐藤 そうですね。
これは、Tシャツとして販売するので
Tシャツとしての効果が欲しいとも思いました。
つまり、商品として、
柄のリズムや、時間とデザインの関係を
なんとなくでも感じてもらえるように。
背景を知らずに浅く接する人にもそれなりに、
深く背景を知った人にもそれなりに、
気に入ってくれるように。
そういう奥行きをつける意味で
接する人にひとつのビジュアルとして
このTシャツの魅力があればいい、と思ったんです。
 
 
 
糸井 とても卓さんらしいです。
 
佐藤 ガムテープって、繊維という制約のうえで
「ピッ」と切れるものですよね。
そんなものを、利き手じゃない不器用なほうで扱う。
 
テーマは「着たいもの」「iPod」の
ふたつがありましたが、
今回、ふたつのチャンスをいただいたことで、
左手と右手の関係性を考えることができました。
 
iPodにも、身体が
深くかかわっているんですよ。
iPodって、身につけて、
どこにでも持っていく、そういうものでしょう。
からだという発想から生まれたものだと
わたしは思うんです。
そういうことを考えながら、やりました。
それにね、ガムテープのテープのシルエットと、
iPod shuffleは、相似形のように、似ている。
貼りつけられたテープのどれかと、
同じ大きさのものが、ありそうですよね。
でも、実際は、ガムテープの大きさは、
まったく気にしないで、適当にやりました。
 
考えないで、どんどん
インスピレーションで貼っていく。
人間だから、当然楽をしたくなるので、
「細かく貼るのは疲れたから、
 広い面積にしちゃおう」
という心境にもなります。
そういうときは、ビーッと長くテープを切ったりしました。
だんだん「左手でこれ全部埋めるのかよ!」
ってなってきて、ビー、ビター(笑)。
「お! 早い早い!
 しかもそれなりのビジュアルだ!」
 
そういうふうにして、こんなものが
生まれちゃった、というわけです。
 
とにかく、テーマがふたつだった、
ということは、大きな意味がありました。
ひとつできたら「ハイ、終わり!」のはずが、
ふたつあることで、ずいぶん違う。
 
糸井 ふたつできるからこそ、
ひとつの意味がものすごく重要になってきます。
ワンアイデアでふたつやりたいときもあれば、
消し合いたい場合もあるし、
組み写真のようにしたい場合もある。
今回のT-1出場者のみなさんは強者ぞろいなので、
余力があって終わったら
ダメじゃないかな、と思ったんですよ。
 
佐藤 余力はぜんぜんないです。
血だらけで(笑)。
 
それに、今回は販売する、ということも
大きなポイントだと思うんです。
僕は、ふだんは
何十万個とか何百万個という、
量産されるもののデザインをしていますから、
売れなければいけない、という条件に、
ひじょうに敏感なんです。
ほかの出場者のみなさんもそうだと思うんですけど、
今回は、何かデザインを思いついては
「あ、これ売れるかな?」と
思ってしまって、
そこが最優先されちゃうんですよ。
 
糸井 卓さんは、ふだんの仕事で
パッケージデザインをしている。
クライアントがいる、たくさん売れたほうがいい。
でも、売れるとか売れないとかいうことを、
あまり考えすぎないほうがいい。
そんな、さまざまなことを思っていらっしゃるわけです。
 
でも、リスクはいつも「他人」なんですよ。
僕らは、はずしたキャンペーンでも
ギャラをもらえるんです。
逆に、成功したからといって
いっぱいもらうわけでもない。
 
一定の環境のなかで、
本気で考えていたとしても、
それは、思いっきり本気で「請け負い」の仕事を
していたとも言えるんです。

でも、例えば卓さんが
事務所を引っ越そうとしたときに、
スタッフの方に「そこは高いよ!」などと言います。
よその仕事をしてるときには、
「高い」とかなんとかは、言わないですよ。
「高いよ」と思いながら、
あえてそこにつっ込んでいって
ビジネスをやっているんです。
 
卓さんのふだんの仕事と、
今回の「Tシャツを売るということ」は
別のおもしろさがあるんですよ。
それをデザイナーのみんなに、
味わってほしかったんです。
 
佐藤 デザインを考えている途中にね、当然、
糸井さんのニンマリした顔も浮かぶわけです。
ニコニコしながら
「ほぼ日」のいつもの原稿を書いてるんだろうな、とね。
でもね、それは、「やるぞ!」という気持ちに
させられましたね。
 
 
 
糸井 第1回というのも、またスリルがあるんでしょうね。
1回目のおもしろさは
1回しか味わえないと思うんですよ。
 
佐藤 いい機会をもらったな、と思っています。
やっぱり2回目の人は、
1回目はどんなかんじだったかな、ということに
なりますからね。
 
糸井 今回の参加者には、
ファッションデザイナーは入れてないんですよ。
ファッションデザイナーは、できちゃうし、
勝負のしかたがわかってるから。
まあ、いつか入れようと思っていますが。
 
佐藤 でも、入っちゃったら、
「かわいそう」とも言えますね!
 
糸井 でも、「出場したい」という人が
出てくると思うんです。
 
佐藤 ええ。きっと、そうでしょう。
 
糸井 じつは、ここだけの話、次回のテーマも
候補を考えているでんすよ。
例えば‥‥(耳打ち)。
 
佐藤 それはまずいですね。
やばいという意味でまずいですよ!
逃げ出したくなりますね、一度。
手強すぎる!
考えただけでも!!!
 
2005-09-29
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