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T-1出場者に糸井重里が訊く。
日本を代表する9人のデザイナーがT-1ワールドカップに集います。販売を前に、主宰者・糸井重里が出場者全員にお話をうかがいました。
大橋 歩(前編) プロフィールを見る プロフィールを見る
「着てほしい」と「着たい」をかきまぜるTシャツ

糸井 今回のT-1ワールドカップで、大橋さんだけが、
いわゆるデザイナーではなくて、
イラストレーターなんですよ。そして、紅一点でもある。
大橋さんに入っていただくことでの、
まわりに対する刺激を、僕は、ねらいました。
 
大橋   そうなんですか(笑)。
じゃあ、ほかのTシャツは
ものすごくデザインぽいものが多いのでしょうか。
 
   
 
糸井 いや、みんなそれぞれに
「期待されてるものを裏切ってやろう」とか、
いろんなことを考えたらしいので、
そうとも限りません。
 
大橋   私はこれをつくるのに、
ただもう、どきどきしちゃって。
このキャスティングは、
どうやってお考えになったんですか?
 
糸井 題材がTシャツなだけに、
若い人にやってほしいとも思うし、
もしかしたら素人だって
おもしろいのをつくるかもしれない。
でも、過去にすでにあったようなものを
作品にしてしまう人も出てくると思うんです。
それはつまらないから、やっぱり今回は
プロ中のプロ、いまのトップランナーの人たちに
あえて頼もうと思ったんです。
だから「そうだ、大橋さんだ!」と、
ひらめいたときは、うれしかったです。
 
   
 
大橋   Tシャツはこれまでに、つくった経験があったんですが、
今回はどうしよう、と思って
いろいろと新しく絵を描いてみたんですよ。
そうしたら、なかなか、
かわいいTシャツにできなかったんです。

私は、一時期、子ども用の寝巻きを
つくっていたことがあります。
いろんな、おもしろい柄の寝巻きを
デザインしたんですけれども、
おもしろすぎて、売れなかったんです。
 
今回は、お客さんが
買うことで一票を投じてくれるわけです。
子どもよりちょっと大きくなったような大人たちが、
自分で「着よう」と思って、
買ってくださるわけですから。
そこをまず、忘れちゃいけない。
 
今回のTシャツのデザインには
最終的にボツになりましたけれども、
ゴリラの赤ちゃんの柄もあったし、
ほかにもいろんなものを考えました。
ゴリラはすごくかわいかったんですよ。
でも、今回は、食べものがいいかしら、と思って。
 
まともなものをつくってもつまらないし、
まわりのみんなからも
「おもしろいものにしたら?」と言われて、
そうだよねと言ってるうちに、
ひらめいたんです、おにぎりが。
そして、おにぎりを描いて、
線を直したりしているうちに、
うちの子どもが「欲しい」って言ってくれたんです。
 
   
 
糸井 このおにぎりのTシャツ、遠くから見ると
フランス国旗に見えませんか?
マドモアゼルノンノンのフランス国旗のTシャツ、
あれを思いだしました。
 
大橋   あれは、なかなかいいTシャツでしたね。
私も愛用していました。
「MADEMOISELLE NON NON」って
フランス語で書いてあって、
ほんとうに、何気なかったです。
思えば、Tシャツというものが、
荒々しいものでなくなったのは、
あのマドモアゼルノンノンのTシャツからだと思います。
 
それまで、Tシャツは、
アメリカのファッションとしてだけ
とらえられていましたが、
あのときに、一気にヨーロッピアンになりました。
Tシャツというものが、完全に
「おしゃれなもの」になった瞬間でしたね。
 
それからしばらくして、
ふたたびアメリカっぽいTシャツが出てきましたが、
いまという時代のTシャツは、いわば
アメリカもヨーロッパも、柄もメッセージも、
キャラクターも、
もうそれこそ「全部」ですよね。
そこに、おにぎり。
私はおにぎりも、あったほうがおもしろいかな、と
思ったんです。
 
糸井 大橋さんがこれまでつくったTシャツには、
どのくらいの種類がありますか?
 
   
 
大橋   けっこうありますよ。
ほんとに、手づくりで制作していました。
いまも、私の事務所にある、大理石の大きなテーブル、
あれをビニールで覆って、シルクスクリーンで、
一枚一枚Tシャツを刷っていました。
みんなで機械になったつもりでね。
 
シルクスクリーンの下にTシャツを設置する人、
刷る人、乾かす人、整理する人など、
全員が流れ作業で。
まるっきりの人力でやっていたのですが、
そのうち、ロスが多いことに気がついたんです。
それからは、刷ること自体は
外にお願いすることにしました。
 
いまのように、
通販のシステムやインターネットが普及していれば、
もうすこしたくさんの量を扱うことになって
手法も違っていたのでしょうけど、
青山の裏のちっちゃなお店で売っているだけで、
来てくださる方も限られていましたから。
それでも、おもしろくておもしろくて、
たくさんつくりましたよ。
 
Tシャツって、おもしろいんですよ。
何なんでしょうね、このおもしろさは。

例えば、気に入っていても、
売れなかったTシャツがあります。
それは、ちょっとアートっぽいような、
具体的なものじゃない絵柄だったんです。
これなら「おしゃれ」の範疇で着られるよね、と思って、
つくったんですけども、
実際には、そういうものは、
みなさんの好みじゃなかった。
やっぱり、何かしら具体的な絵が欲しいんですね。
そして、売れ残りが出てくる。
 
そうすると、
次からこういう系統のものはつくらないでおこう、
ということになり、デザイン全体が
おとなしくなっていってしまう傾向にありました。
 
糸井 「売れないのを引っ込めると、おとなしくなる」
ということは、よくわかります。
冒険心が失われるのは、ちょっと悲しいですね。
 
大橋   やっぱり、こちらが
「やりたい、おもしろいね」と思うものが
ほんとは売れていってくれるといいと思う。
今回も、例えば、
お花みたいな柄のもののほうが売れるとは思うんですよ。
「これを着てほしい」という気持ちと
「着たい」という気持ちは、
かならずしも一致しないんです。
でも、そこを近づけたいから。
 
糸井 わかります。
その意味でも、いま僕は、
Tシャツというものを
かきまぜたいな、と思っているんですよ。
 
大橋   それはもう、ぜひとも、
かきまぜたいですね。
 
   
 
2005-09-18
  後編へつづく


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