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糸井 |
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今回のT-1ワールドカップで、大橋さんだけが、
いわゆるデザイナーではなくて、
イラストレーターなんですよ。そして、紅一点でもある。
大橋さんに入っていただくことでの、
まわりに対する刺激を、僕は、ねらいました。
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大橋 |
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そうなんですか(笑)。
じゃあ、ほかのTシャツは
ものすごくデザインぽいものが多いのでしょうか。
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糸井 |
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いや、みんなそれぞれに
「期待されてるものを裏切ってやろう」とか、
いろんなことを考えたらしいので、
そうとも限りません。
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大橋 |
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私はこれをつくるのに、
ただもう、どきどきしちゃって。
このキャスティングは、
どうやってお考えになったんですか?
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糸井 |
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題材がTシャツなだけに、
若い人にやってほしいとも思うし、
もしかしたら素人だって
おもしろいのをつくるかもしれない。
でも、過去にすでにあったようなものを
作品にしてしまう人も出てくると思うんです。
それはつまらないから、やっぱり今回は
プロ中のプロ、いまのトップランナーの人たちに
あえて頼もうと思ったんです。
だから「そうだ、大橋さんだ!」と、
ひらめいたときは、うれしかったです。
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大橋 |
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Tシャツはこれまでに、つくった経験があったんですが、
今回はどうしよう、と思って
いろいろと新しく絵を描いてみたんですよ。
そうしたら、なかなか、
かわいいTシャツにできなかったんです。
私は、一時期、子ども用の寝巻きを
つくっていたことがあります。
いろんな、おもしろい柄の寝巻きを
デザインしたんですけれども、
おもしろすぎて、売れなかったんです。
今回は、お客さんが
買うことで一票を投じてくれるわけです。
子どもよりちょっと大きくなったような大人たちが、
自分で「着よう」と思って、
買ってくださるわけですから。
そこをまず、忘れちゃいけない。
今回のTシャツのデザインには
最終的にボツになりましたけれども、
ゴリラの赤ちゃんの柄もあったし、
ほかにもいろんなものを考えました。
ゴリラはすごくかわいかったんですよ。
でも、今回は、食べものがいいかしら、と思って。
まともなものをつくってもつまらないし、
まわりのみんなからも
「おもしろいものにしたら?」と言われて、
そうだよねと言ってるうちに、
ひらめいたんです、おにぎりが。
そして、おにぎりを描いて、
線を直したりしているうちに、
うちの子どもが「欲しい」って言ってくれたんです。
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糸井 |
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このおにぎりのTシャツ、遠くから見ると
フランス国旗に見えませんか?
マドモアゼルノンノンのフランス国旗のTシャツ、
あれを思いだしました。
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大橋 |
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あれは、なかなかいいTシャツでしたね。
私も愛用していました。
「MADEMOISELLE NON NON」って
フランス語で書いてあって、
ほんとうに、何気なかったです。
思えば、Tシャツというものが、
荒々しいものでなくなったのは、
あのマドモアゼルノンノンのTシャツからだと思います。
それまで、Tシャツは、
アメリカのファッションとしてだけ
とらえられていましたが、
あのときに、一気にヨーロッピアンになりました。
Tシャツというものが、完全に
「おしゃれなもの」になった瞬間でしたね。
それからしばらくして、
ふたたびアメリカっぽいTシャツが出てきましたが、
いまという時代のTシャツは、いわば
アメリカもヨーロッパも、柄もメッセージも、
キャラクターも、
もうそれこそ「全部」ですよね。
そこに、おにぎり。
私はおにぎりも、あったほうがおもしろいかな、と
思ったんです。
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糸井 |
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大橋さんがこれまでつくったTシャツには、
どのくらいの種類がありますか?
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大橋 |
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けっこうありますよ。
ほんとに、手づくりで制作していました。
いまも、私の事務所にある、大理石の大きなテーブル、
あれをビニールで覆って、シルクスクリーンで、
一枚一枚Tシャツを刷っていました。
みんなで機械になったつもりでね。
シルクスクリーンの下にTシャツを設置する人、
刷る人、乾かす人、整理する人など、
全員が流れ作業で。
まるっきりの人力でやっていたのですが、
そのうち、ロスが多いことに気がついたんです。
それからは、刷ること自体は
外にお願いすることにしました。
いまのように、
通販のシステムやインターネットが普及していれば、
もうすこしたくさんの量を扱うことになって
手法も違っていたのでしょうけど、
青山の裏のちっちゃなお店で売っているだけで、
来てくださる方も限られていましたから。
それでも、おもしろくておもしろくて、
たくさんつくりましたよ。
Tシャツって、おもしろいんですよ。
何なんでしょうね、このおもしろさは。
例えば、気に入っていても、
売れなかったTシャツがあります。
それは、ちょっとアートっぽいような、
具体的なものじゃない絵柄だったんです。
これなら「おしゃれ」の範疇で着られるよね、と思って、
つくったんですけども、
実際には、そういうものは、
みなさんの好みじゃなかった。
やっぱり、何かしら具体的な絵が欲しいんですね。
そして、売れ残りが出てくる。
そうすると、
次からこういう系統のものはつくらないでおこう、
ということになり、デザイン全体が
おとなしくなっていってしまう傾向にありました。
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糸井 |
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「売れないのを引っ込めると、おとなしくなる」
ということは、よくわかります。
冒険心が失われるのは、ちょっと悲しいですね。
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大橋 |
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やっぱり、こちらが
「やりたい、おもしろいね」と思うものが
ほんとは売れていってくれるといいと思う。
今回も、例えば、
お花みたいな柄のもののほうが売れるとは思うんですよ。
「これを着てほしい」という気持ちと
「着たい」という気持ちは、
かならずしも一致しないんです。
でも、そこを近づけたいから。
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糸井 |
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わかります。
その意味でも、いま僕は、
Tシャツというものを
かきまぜたいな、と思っているんですよ。
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大橋 |
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それはもう、ぜひとも、
かきまぜたいですね。
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