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糸井 |
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いま、T-1ワールドカップのリングに、
ゾロゾロと選手たちが
入場している最中です。
アッキィ(秋山さんのこと)は、
今回Tシャツをデザインするにあたって、
どんなことを考えました?
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秋山 |
まず、Tシャツをどういうものととらえるか、
ということが鍵になると思うんです。
糸井さんからいただいた企画書には
「Tシャツはキャンバスだ」と書いてありました。
もちろんそういう考え方もあるし、
もしかしたら宇宙だと考える人もいるかもしれないし、
メディアだと考える人もいるかもしれない。
さまざまなんですけど、
僕はわりと、メディアに近いようなことを
考えていました。
以前、篠山紀信さんの写真集の仕事を
させていただいたときに、
篠山さんはカタカナの
「シノヤマキシン」という名前で
本を制作なさったんです。
そのときに「シノヤマキシン」という
文字の入ったTシャツをつくりました。
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糸井 |
憶えています。あれ、よかったね。
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秋山 |
出版社やテレビ局に、
本を取り上げてもらうための
プレスキットでもあったんですけれども、
いちばんの目的は、
それを篠山さんが着て、テレビに出たり、
雑誌の取材に応えること。
これは、すごく効果があったんです。
篠山紀信という、日本でいちばん有名なカメラマンが、
「シノヤマキシン」というTシャツを着てるのが、
いちばんのインパクトになる。
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糸井 |
それはまるで、本人に
ふりがなを振ってるみたいになるね。
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秋山 |
ええ。そういうTシャツの使い方は、
すごくおもしろいなと思いました。
さらに、そのTシャツを
長島有里枝ちゃんをはじめ、
ほかのカメラマンが着て、
自分で写真を撮って、
彼女たちの写真集に載ったりもしているんです。
そのギャップもおもしろかったり。
つまり、篠山さんはすごく有名なんだけど、
篠山さん以外の著名なカメラマンが、
また「シノヤマキシン」Tシャツを着て、
人の写真を撮ってるという感覚が、
何かちょっとずれてて、おもしろいんです。
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糸井 |
しかもあれは、本人の承諾がなかったら
つくれないもんね。
そういうところも、おもしろい。
そんなふうに言われると「イトイシゲサト」という
Tシャツも、つくってほしくなったりするね。
うらやましいけど‥‥やっぱりよそうかな(笑)。
自分のがあったら嫌でしょ?
「アキヤマグギ」って書いてあったら。
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秋山 |
嫌ですねぇ。
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糸井 |
嫌ですよねぇ。
だから、篠山さんはすごいよね。
Tシャツをメディアだと考えたアッキィは、
その後Tシャツをデザインするのに、
どんな道筋をたどったの?
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秋山 |
例えば名刺だと、
人に対して、いちばん最初に
自分を紹介するメディアだという前提で
考えるんです。
自分の名前をモチーフに発想したり、
自分の過去を発想するやり方もあるし、
そこで未来を感じさせるやり方もあります。
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それから、名刺って
両手でつまむような格好で人に渡します。
実際に名刺を見るときには、
視覚を働かせるんですけれども、
人さし指と親指の感覚というのが
実はすごく大事だと思っています。
名刺については、自分のなかで
そのあたりのことがジャンル化されてるんですけど、
Tシャツはやっぱり難しいです。
これまで自分でも、いろんなTシャツを
つくってきたんですけれどもね。
Tシャツは、あまりにもたくさんあるし、
いいデザインのものがいっぱいある。
すごく悩みましたけど、
お話をいただいてからデザインの〆切までに、
3週間くらいありましたから、
それが、長すぎて。
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糸井 |
長すぎたんだ?
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秋山 |
いろんなことを考えすぎちゃいました。
1週間くらいのほうが
自分のリズム的にはいいんですけど。
っていうか、3日でもいいくらいなんですけど。
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糸井 |
そうか‥‥。
いつもの仕事とちがって、スパンが長すぎたかな。
そういえば、実際に自分がTシャツを買うときには
即決だよね。
アッキィにしてみれば、
「急がせてくれ」みたいなところがあるわけだ。
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秋山 |
そうなんですよ。
3週間というと、21×24で
504時間もあるわけです。
ふだんは、広告の仕事をはじめ、
いろんなことをやっているんですが、
僕は、仕事というものを、
走るコースが仕事の数だけあるイメージで
とらえているんです。
仕事が増えていくとコースの数が増えていくんです。
そして、各コースの自分が、いろんな仕事にむかって
走っているわけです。
そこでダッシュしなきゃいけない仕事があったり、
まだゆっくり走っててもいいなというようなものも
いろいろとあるなかで、
今回のTシャツのことが、ずっと常に
残っているんですよ。
もちろん集中して考える時間も取るんですけど、
ずーっと、常に「ある」という状態。
ゆっくり走ってもいいかもしれない、という状況で
ある程度走っているくせに、
ちょっと引き返したり、
また前を向き直したりしていると、
集中力に欠けるんです(笑)。
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糸井 |
ああ、アッキィは、そのやり方はしていないね。
俺も、昔はそうじゃなかったんだけど、
いまは、やり残しをいっぱい貯めてる状態でいるから、
頭のなかは忙しいんだけど何にも進みませんでした、
という日がけっこうあるんだよ。
それはね、慣れだよ。
広告の仕事は、規定問題を解くことが多いでしょう。
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秋山 |
ええ。いろんな状況や制限もありますし。
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糸井 |
だから「ここはもう息止めて」とか「我慢して」とか、
「いいや!」といってやってしまうような機会が
何回かあるんですよ。
だけど、自由課題は、息を止める機会がないんだよね。
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秋山 |
そうなんですよ。
自分は「お題」があってやる仕事については
ずっと訓練されているんですけど、
そうじゃないものには、慣れていない。
ですから、今回は時間といいテーマといい、
苦労しましたよ。
洋服を買うときのポイントは、
柄が好きとか、形が好きとか、
いろいろあると思うんですけれども、
まずは自分がどういうものに注目して
「好き」と言っているのかを考えました。
あとはTシャツって、ジーパンに合わせて着る人が
圧倒的に多いので、
ジーパンで着る、という要素は
外せないだろうな、とか、
最近はジャケットのなかに着る人もいるし、
それにも合うようにしたいな、とか。
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糸井 |
欲が出てくるわけだ。
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秋山 |
出てきますね。
僕は、キャラクターをつくったりするのが
好きなんですが、
日本は、子どもにも大人にも
キャラクター文化が根づいている、
めずらしい国です。
アメリカやヨーロッパだと、
大人がキャラクターグッズを持っていると
ばかにされることがあります。
しかも日本ではみんな、
携帯電話などの目立つ場所に
キャラクターをくっつけて、
たのしんでいますね。
僕は、この機会に、
「大人でも嫌じゃないキャラクター」を
つくってみたいな、と思いはじめたんです。
それも「洋服としてちゃんと成立するキャラクター」を。
これまで自分がやっていた種類じゃないところで
やってみたいなと思って、
けっこういっぱい考えたんですよ。
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