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明後日から、T-1ワールドカップ
9名18作品が同時に販売開始されますが、
今日は雑誌「宣伝会議」の田中編集長に
見どころをおうかがいしたいと思います。
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田中 |
よくこれだけのみなさんが顔を揃えましたね。
甲子園のようで、ほんとうにたのしみです。
この9人がTシャツに何を載せたのか、
メッセージなのか、デザインなのか、
興味があるところです。
しかも、自由演技と規定演技があるんですね。
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「みんなが『着たい!』と思う」という
自由課題のようなテーマと、
「iPodに似合う」をテーマにしたもの、
2種類をデザインしていただきました。
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田中 |
アーティストの自己表現を
単に出す場ではないんですね。
「みんなが『着たい!』と思う」ものを、
たとえば青木克憲さんの視点で見るとどうなるかが
わかって、すごくおもしろいと思います。
こういうテーマの出し方は、これまでなかったし、
糸井さんの観点はさすがにちがうな、
と思いました。
それに、投票を募って1位になったものだけを
商品化するのではなくて
はじめから全部販売して、その結果を競うわけですね。
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最初からが勝負であり、しかも、
「みんなが身銭を切って、ほしいと思うものはどれか」
という土俵で闘うんです。
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田中 |
そこも、いままであまり
なかったパターンだと思いますよ。
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では、出場者おひとりずつについて、
うかがっていきたいと思います。
アイウエオ順ですと、青木克憲 さんからですね。
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田中 |
青木さんは、カミロボ展など、
いつもおもしろいことをされている方です。
キャラクターのプロデューサーという
イメージがあるので、
Tシャツにも、キャラクターを
載せてこられるだろうな、と思います。
青木さんは、立体的なキャラクター映像をつくったり、
建築を手がけたり、
とにかくいろんな表現方法を持っていらっしゃいます。
エンターテイメント性もある方ですし、
Tシャツというメディアに
青木さんが何をどう表現しようとしたのか、
すごく楽しみですよ。
青木さんのキャラクターは、ユニークなんですが、
いわゆる「キモかわいい」などではなくて、
男性女性問わず受け入れられる、
「王道」のところを出されるんです。
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青木さんご自身は、第一印象は
こわいイメージがあります(笑)。
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田中 |
コワモテで、声もハスキーだし(笑)。
男気があるから、パッと見たかんじは
ハードなイメージがあるかもしれませんが、
青木さんは、すごく健全で正当派です。
力強くデザインして、でも、出てくるものはやさしい。
そこが青木さん的で、私は好きです。
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なるほど。キャラクターというところは、
田中さん、あたっていますよ。
次に、秋山具義 さんについておうかがいします。
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田中 |
具義さんも、欽ちゃん球団のロゴや
キャラクターデザインをなさっていますね。
一歩はずすと、「え?」となってしまうものが、
ぎりぎりのラインで、すごくオシャレになる。
たぶんそれは、具義さんの
洗練されたユーモア感覚がそうさせるんだと思います。
きれいなデザインというのは、
ほんとうはそんなに難しくないのかなと
私は思ったりするんです。
でも、ユーモアがあって、親しみがあって、
いとおしいと思わせてくれるデザインは、
なかなかできない。
そこのところを、具義さんはやっている。
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秋山さんご自身も
ちょっとコワモテの第一印象ですが、
デザインは、たとえばエッチなものを扱っていても
いやな感じがしないし、広がりがあって、
やわらかい印象があります。
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田中 |
おそらく、女性にも
すごく配慮をしているんだろうし、
嫌われないようなポイントを
よくついてらっしゃるんだろうなと思います。
具義さんのデザインは、全体的に、
ユニークでイキイキしていて、
時代感覚が、新しくも古くもなく、
いつも「アッキィ時間」になるんです。
「ほぼ日」のキャラクターのおサルも、
なつかしいといえばなつかしいし、
未来的といえば未来的でしょう。
独特の、すばらしい感性です。
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さて、次は、井上嗣也 さんです。
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田中 |
嗣也さんは、あまり人前に出られない方です。
ですから、「大御所の、渋い人」という
イメージがあるんですよ。
嗣也さんのつくられるものは、
すごくたくさんの人に支持されています。
広告のデザイナーはもちろん、
建築をはじめ、いろんなクリエイティブに
携わっている人たちに
嗣也さんのファンがものすごく多いんですよ。
年上にも年下にも、ほんとうに幅広く尊敬されている。
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業界内での井上さんの評判は
たしかにすごいですね。
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田中 |
もしかしたら職人的なんでしょうか。
だから、ちょっとこわいイメージがあります(笑)。
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青木、秋山、井上と、
ここまで3人全員コワモテですね。
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田中 |
自分でプロモートしたり
個展を開いたり雑誌に出たりで、
いろんなことを発信される
デザイナーさんが増えてきているなかで、
嗣也さんは、どこにも露出しないで
これだけの支持を集めている。
ですから、世間での評判が
そうとういいんだと思いますよ。
嗣也さんは、タイポグラフィーに
昔から定評がありますので、
タイポグラフィーをきかせたようなものを
デザインされたのではないでしょうか。
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2種類のTシャツとも、
文字と、ご自身の描かれた動物のイラストを
組み合わせてデザインしておられます。
嗣也さんは、お会いしたら、
すごくおもしろいおじさんでした(笑)。
ぜひ、糸井によるインタビューを見てみてください。
次は、紅一点の 大橋歩 さんです。
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田中 |
大橋歩さんの描かれるイラストは、
まず、すごく、すごく、かわいいです。
大橋さんの雑誌「アルネ」に出てくる被写体は、
なんでもないものなのに、
かわいかったり、味わい深く見えます。
読者にそう思わせる秘密を
確実に大橋さんは持っている。
そこが大橋さんの偉大なる編集者としての力です。
私も編集者ですが
あそこまで行ける編集者は、なかなかいないと思います。
今回のTシャツも、見たことのないような、
いとおしいものを
出していらっしゃったんじゃないでしょうか。
なんでもないんだけど、なんだか気になるもの。
お店に入ったときに、自分につきまとって、
買っていいのかどうか迷いながら、
「でもこれ気になるのよね」というかんじで
買ってしまいそうなもの。
大橋さんのつくられるものは、
なんだかそういうかんじがします。
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大橋さんも、大御所といえば「超」大御所ですね。
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田中 |
嗣也さんよりもさらに大御所のイメージがありますね。
でも年齢不詳!
あのかわいらしさはすごいです。
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大橋さんの、ピンクハウスの広告などを見ていて、
とんがった方のようなイメージを
お会いするまでは勝手に持っていたんですが。
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田中 |
特別な世界をつくっていらっしゃる方なので
怖いのかな、厳しいのかな、
ちょっとでも変なことを言おうものなら怒られるのかな、
と、私も思っていました。
ですから、最初にお会いしたとき
慎重に言葉を選んで取材しましたよ。
でも、あのイラストどおりの、
やさしい方で、感動しました。
それに、とてもかわいい人なんですよね。
イラストはたまたま
ご自分の持っていらっしゃる能力であり
コミュニケーションツールのひとつというかんじがします。
エッセイもすごくすてきだし、
大橋さんは、いろんな広がりを持っている方です。
売れ筋を考えると、今回は、
大橋さんのポイントが高いかな、と思います。
クロワッサンの商品企画も、
ずっとやっていらっしゃるから、
どんなものが受け入れられるか、
世の中で何が支持されるかを、
肌感覚でわかっておられるでしょう。
今回の出場者に、大橋さんを入れられたところが
糸井さんの素敵なところですね。わくわくします。
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さて次は、佐藤可士和 さんです。
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田中 |
可士和さんや具義さん、青木さんは、
私とほぼ同世代なんです。
少し前までは「若手」と言われたんですけど、
もういまや中堅になってきて、
活躍をしないわけにはいかない
世代になってきていますね。
可士和さんは、いろんなものに出会って、
新しいものをつくると次にまた進化する、というような、
すごいパワーを持った人だと思います。
ひとつのものをしあげると、
もう次のものが視野に入っていて、
「次はこれをやりたいな」と自分で公言すると、
ほんとうに声がかかって、実現する、
というかんじなんですよ。
Tシャツはパワーの源のようなところがあって、
どの服よりも活発にもなれるものだと思います。
そこに可士和さんのエネルギーを投入してくれると
すごくいいな。みんな着たくなると思います。
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可士和さんは、クールでかっこいいし
すごいスピードで走っている、という印象があります。
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田中 |
目立つ少年がそのまま大人になった、
というイメージがありますね。
ですから、みんなが応援します。
自信にいつも満ちあふれていて、パワーがあるから
縁起もののTシャツになるかもしれませんよ。
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あやかりたい「可士和パワーTシャツ」ですね。
つづいて 佐藤卓 さんですが、
卓さんは、手がけておられるデザインが
きちんとみんなが知っているもので、
「もう言うことなし!」という
完璧なイメージがあるのですが。
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田中 |
卓さんは、首都大学東京のVIなども
やっていらっしゃいますね。
いつもポンと答えを出される方なんですが、
考え抜いてそこに至ったのが、きちんとわかるんです。
会合などにもご一緒したことがあったのですが、
そうとう理論派で、
デザインのコンサルティングのようなことを、
とくとくとクライアントのトップに向かって
話されていました。
すごいと思います。
著書の「デザインの解剖」も、
頭のキレるかんじがします。
でも、卓さんの趣味はサーフィンなんですよ。
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え!?
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田中 |
意外ですよね。
いつもいつもいろんなことを考えていて、
すごくダイナミックなものを
感動するくらいコンパクトに、理路整然と収めるのが、
卓さんの芸風なのかな、と思います。
キシリトールガムのようなTシャツが出てくるのか、
あるいは、サーフィンのように
ご自分をさらけ出してくるのか、
どちらをTシャツになさったのか、楽しみですよ。
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── |
ご自分では、
「商品を売るのは自信があるけど、
自分を売るのは自信がない」
とおっしゃってました。
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田中 |
卓さんはご自分でいつも、
「表現スタイルは持たない」という言い方を
なさっています。
ですから、おそらく広告の仕事がすごくお好きで、
クライアントあっての広告であり、
クライアントの課題を解決するために、
自分のクリエイティブを発揮する、
と考えていらっしゃると思うんです。
でも、今回はクライアントがお客さんだから、
卓さんなりに、
この短い期間にマーケティングリサーチをなさって、
Tシャツの解釈を出されたのかもしれないですね。
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祖父江慎 さんは‥‥。
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田中 |
祖父江慎さんのお仕事で何といっても有名なのは、
やはりブックデザインですね。
私自身は直接お会いしたことがないのですが
クマ語とか宇宙語とか、
不思議な文字をたくさん開発していらっしゃるとか‥‥?
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そうなんですか‥‥?
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田中 |
祖父江さんは、人が考えないようなことを
いきなりやるところがあって
出版社的にはドキドキものらしいですね。
「いくらかかるんでしょう?」
と、全員が心のなかで思ってしまう
シーンがあるとか(笑)。
Tシャツも、もしかしたら、
制作費が高いものになったんじゃないかと(笑)。
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「爬虫類の手ざわりを」とおっしゃって、
Tシャツのインクを
かなり選んでいらっしゃいました。
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田中 |
「出版社も印刷会社も困る、本屋さんも置きづらい」
というような装丁をされる。
でも、買う人にとってはそれだけ
「気になる」ということですから。
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── |
力のある本だな、と思って手にとったら、
装丁は祖父江さんだった、ということが多いです。
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田中 |
ほんとうに人気がある方ですよね。
祖父江さんの、
「こんなことできないか?」のひと言で、
印刷技術が進展している、という噂もあるくらい。
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── |
たしかに、そうですね。
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田中 |
技術者や現場の人と
クリエイターやマーケティングの人が議論することで、
新しいものは生まれますね。
「ええ? 何を言い出すか!」
というようなことが、
クリエイティブの進化につながっているんでしょう。
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── |
祖父江さんという人がひとりいらっしゃるだけで、
書店が変わっていくかもしれないし、
お客さんも変わっていくかもしれない。
今回のTシャツも
「祖父江さんのせいで!」という(笑)、
そんな現象が起こるかもしれないですね。
次は唯一のwebデザイナー、
トム・ヴィンセント さんです。
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田中 |
トム・ヴィンセントさんは、
日本にいらっしゃって10年くらい経たれたでしょうか。
イメージソースの方だと知ってはいたんですが、
私は、直接面識はないんですよ。
たくさんいいお仕事をしてらっしゃいますし、
だいいち、ロンドン子が日本で仕事してるところが
とってもユニークですよ。
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日本語がペラペラで
メールもバリバリに漢字でした。
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田中 |
頭のいい、繊細なデザインをなさいますが、
イギリス的な、ものすごくクールで遠いイメージは
ないです。
いまはwebの世界で活躍なさっていますが、
ロンドンにいらっしゃるときは、
ドローイングをなさったり、
脚本も書いていらっしゃいました。
ですから、今回のT-1ワールドカップでも
webの無機質なイメージというよりも、
どのデザイナーより、どんな日本人より
親近感のあるデザインや、
インパクトが強いものを
出されたんじゃないでしょうか。
もしかしたら日本人以上に日本の感覚を
持ってるかもしれない。
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トムさんが、日本人が着たいものを、
感覚としてどういうふうに入れてきたのかが
気になりますね。
さて、最後は 深澤直人 さんです。
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田中 |
深澤さんは、ずっとおつきあいがありながらも
お会いするチャンスがなくて、
またまた「気難しい方かもしれない」という
イメージを勝手に抱いていました(笑)。
でも、シンポジウムでご一緒させていただいて、
「ああ、まずいな」とドキドキしたんですけれども、
ほんとうにすごくいい方でした。
持っていらっしゃる雰囲気がすばらしくて、
驚きましたよ。
そのシンポジウムの時間が
ちょうど夕暮れどきだったんです。
夕暮れのなかに、広告の看板の電灯が
だんだんついていったんですけれども、
「こういう時間に目立つ色って、赤なんですよ」
と、説明してくださって、
ご自分の赤いデザインのプロダクトを
見せてくださったりしました。
すべての作品に、ストーリーがちゃんとあって、
ひとつひとつのものや、こと、時間、風景、
すべてに対して、愛情を注ぎ込んでいる人です。
だからああいういい作品が出てくるんだなと、
わかりました。
私には到底真似のできない日々のすごしかたを
なさっているんだな、と思いましたよ。
どういうものが
コミュニケーションをするデザインかを、
すごく考えてる方だと思います。
深澤さんは、Tシャツなんだけど、Tシャツじゃない、
Tシャツじゃないけど、Tシャツというような
そんなものを、考えてくれそうな気がします。
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以上9名が出場する、今回のT-1ワールドカップは、
明後日(2005年10月5日)に販売開始です。
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田中 |
リングにあがる人たちも、たのしいですね、きっと。
市場で、きびしい評価が待っていますが、
それだけ自分にも自信があって、
世のなかと関わりを持とうとする強いところが、
この9名のみなさんのすばらしさだな、と思います。
Tシャツというものは、
プリントされているものが
メッセージであっても、柄だったとしても
「この人がなぜこのTシャツを選んだんだろう」
と考えさせるものだと思います。
Yシャツやスーツなどは
「買わざるを得なかったのかな」という印象で、
自分の生活の戦略のようなものが
あまり見えないんですけど、
Tシャツは、それがわかると思います。
子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、
一枚のTシャツにまつわるエピソードを
それぞれみんなが持っていそうですよね。
市場の中で、どれがいまいいのか、ということを、
同時に見ながら販売するということは、
すごくおもしろいなと思います。
たのしみですね!
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広告のプロの視点からの
貴重なお話をたくさん、
ありがとうございました!
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