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糸井 |
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今回はTシャツデザインの候補を
たくさんつくったと聞いたんだけど、
「こうしたい」というのが
途中からどんどん出てくるタイプだよね。
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井上 |
そう、途中から生まれてくるわけよ。
例えばドングリの絵だったら、
じゃ、ドングリ転がろうか、
ドングリ焼こうか、と、なっちゃう。
だから、油絵なんかで
じっくりひとつのものを描く、
ということは、できない。
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糸井 |
やったこと、ないの?
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井上 |
そんなまじめじゃないもの、俺。
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糸井 |
一回もやったことのない人って、
めずらしいよね。
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井上 |
一生やらない、俺、一生やらない。
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糸井 |
タコの絵は描いたんでしょ。
これ、「イラストは、誰?」って
言われると思うよ。
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井上 |
そうだろうね。
(ボツになったスケッチを出して)
見てよ、このカスレがいいんだよね。でもボツなの。
一筆書きでね。でも顔が中途半端だよね。
顔をつくるのは、たいへんなんだよ。
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糸井 |
出てくる、出てくる。
タコのデッサン、1000枚以上あるね。
ほんと、なに考えてんだろうね、この人は。
Tシャツになった1匹のタコのうしろに、
いったい何匹のタコがいたことか。
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井上 |
だいたい、10秒以内に描いちゃうの。
描いてるうちに、
「ここがこうだと、もっと何かができるんじゃないか」
というふうになっちゃって、
またどんどん描いちゃうわけよ。
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糸井 |
欲が出るんだ。
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井上 |
出る。欲というより、
遊びたいんだよ。
これを考えているときにね、
タコが勝手に動き出したんだよ、音楽に合わせて。
また、それが、いいの。
クルクルってまわって踊るんだよ。
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糸井 |
何の音楽?
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井上 |
ビリー・ボーンの「波路はるかに」。
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糸井 |
(音楽流れる)
ピラフのある喫茶店を感じるね。
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井上 |
ピーマンがちょっぴり入ってる
ナポリタンだね。
タコのTシャツは、いいよ。
この音楽がかかったビーチでさ、
これ着て、頭悪そうに、
てかてかに灼けてさ。
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糸井 |
タコのTシャツのグラフィックは、
立体的に見えるように
すごく細かい影がついているね。
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井上 |
これは、やりすぎるとだめなんだよな。
でも、あるのとないのとぜんぜん違うんだよ。
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糸井 |
自分では根気がない、って言うけど、
そういうふうには思えないね。
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井上 |
根気というより、
こうなったらどうなるだろう、
見たい、見たい、となっちゃうわけよ。
アイデアが、もうキリないの。
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糸井 |
タコ以外にも、
ボツになったデザインが山ほどあるんだね。
どれもいいね。
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井上 |
こんなのは、まじめすぎてダメなんだよ。
みんな、欲しくない、欲しくない。
仕事のコンペだと出すけどさ、
Tシャツとして欲しいかというと、
そうでもないんだよ。
コンセプチュアルなんだよな。
ちょーっと、クサいわな。粋じゃないわな。
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糸井 |
これもだめなの?
ちょっともったいないなあ。
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井上 |
負けちゃうんだよなぁ。
何かにね。
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糸井 |
なんだろうね?
ダンボール的なものに、かな。
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井上 |
そうなのよ、ダンボールなものに負ける。
これ、T-1に出すには退屈なんだけど、
広告用だったらいいと思うんだな。
iPodにはまりすぎちゃったんだよね。
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糸井 |
すごいねぇ。これを出さないところが、すごい!
ちょっと、本職を見せちゃったね。
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井上 |
そう、そう、そう。恥ずかしいってかんじ。
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糸井 |
ほとんどの試作に
ひとつひとつにこまかく顔を
乗せたんでしょう?
たいへんだね。
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井上 |
たいへんじゃないよ、
がんばってできるものは、
ぜんぜんたいへんじゃない。
やればできるものは、
やればできるんだからね。
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糸井 |
そうだね。
がんばればいいんだから。
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井上 |
そう。がんばればいい。
いつも、行き当たりばったりよ。
とにかく、見たいのよ。俺。
この部屋にある、この写真もあの絵もかわいいでしょ。
とにかく、見たい、見たい。
目が乾くのよ、俺。
見ないと、目が乾く。
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糸井 |
よかったねぇ。デザイナーになって。
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井上 |
でも、俺って
デザイナーかどうかわからないじゃない。
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糸井 |
あ、そうなの(笑)?
ただ、見てるんだ。
こうなったらどうかな、ああなったらどうかな、と。
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井上 |
見たいだけ。
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糸井 |
見たいのね。
井上嗣也は、見たいのね。
人生、短いもんね。
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井上 |
短いよ。短いから、
とにかく遊びたいわけよ。
ダンボールかぶって、T-1でもやって(笑)。
だいたい、会社に来るのにも
いつも違う道を通ってるんだよ。
あっち行ったり、こっち行ったり、
違う古本屋に寄って。
同じ道は、もう、たまらないよ。
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糸井 |
井上嗣也さんは、家出して
バイクで東京に来たんだよね。
「東京ってのは見えないからさ、
東京タワーが目印なのよ」
って。あれは、ほんとなの?
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井上 |
おもしろい話だね。
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糸井 |
俺は、そのときから
東京タワーを見る目が変わったもの。
東京の地図を持っていない人でも
「どこだかわからないけど東京タワーがあるんだ」
と思ったら、来られるってことだよ(笑)。
ここにひとりいるということは
東京タワーを目印に東京に来た奴って、
いっぱいいるような気がする。
今回のTシャツは、
何人買ったかで優勝が決まるんですけども、
買った方々に、どんなふうに着て欲しい?
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井上 |
好きに、好きに、好きに。
セクシーにね。
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糸井 |
ふふ、そうだね。
ありがとうございました。
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