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T-1出場者に糸井重里が訊く。
日本を代表する9人のデザイナーがT-1ワールドカップに集います。販売を前に、主宰者・糸井重里が出場者全員にお話をうかがいました。
井上 嗣也(前編) プロフィールを見る プロフィールを見る
T-1なんてものがあるから俺はとても損をする。

井上 Tシャツは、さ。
いくら頑張ったって、いいものに負けるね。
いいものは何かと言うと、
無限にあるもののなかからピックアップしたもの。
それには負ける。
いくら、デザインとかさ、
アイデアがあったとしても、ダメよ。
 
昨日も、疲れたから、
ちょっと早めに仕事を切り上げて、
原宿に行ったんだよ。
つまらないやつ、いっぱいあるけど、
1枚、見つけたの。
ピンクのTシャツにさ、南米のチリの地図が
描いてあるわけ。
チリって、縦長の国でしょ?
縦長の国のシルエットに、
「Chile」って書いてある。
それをひとつ見て、
いっくらがんばったってダメだと思った。
 
糸井 それは、カメラマンの発想だね。
いくら箱庭をつくったってダメで、
現実にどこかに行って写真を撮ってきたほうが、
材料があるもんね。
 
 
 
井上 そのとおり。例えばチリという国の形はさ、
アートなんかを完全に超えてるんだよ。美しくてね。
アートには、俺、ぜんぜん興味ないもん。
特に、コンセプチュアル・アートなんていうのは
もう、退屈で。
 
糸井 チリが好きだという気持ちは、
なんだかわかる。
 
井上 チリはすごいよ。
この入り江のすごさというのは!
そんなの、発想したって出てこないね。
負けちゃうよ。
 
糸井 その「負けちゃう」というのが、
とってもいいね。
 
井上 俺、負けっぱなしだよ。
いま俺が着ているTシャツだって、
デザイン、わけわかんないでしょ?
ただ、もう、大好きなのよ。
 
糸井 それ、古着?
 
井上 うん。俺、全部、古着。
 
 
 
糸井 この色を着ている
この年代の人って
日本じゅうで、きっと6人ぐらいしか
いないだろうね。
職のない人とかだったら、わりと着ている色かなぁ。
 
井上 「職のない人」なんて、俺の理想だよ。
俺は基本的に、
食い逃げができるような人生じゃないと、ダメ。
顔を知られたら終わりなの。
世間にも家族にも、顔を知られたくないの。
 
糸井 家族にも?
めちゃめちゃだなあ。
 
井上 俺、8〜9年前にさ、
プロ野球のマークをデザインしたの。
そのとき、名前と顔写真が、新聞に出たりしたわけ。
それでバレちゃったのよ。
ものすごく、損したわけ、俺は。
 
糸井 聞くところによると
嗣也は、ヴェールに包まれた
デザイナーなんだって。
 
井上 ヴェールなんかとんでもない。
ヴェールに包まれたりしたら、死んじゃうよ。
どちらかというと、ダンボールだな。
俺は、ダンボールに包まれてる。
 
糸井 じゃ、ヴェールじゃなくて
ダンボールに包まれたデザイナーということにしよう。
これからは、道で動くダンボールが見たいね。
「お、なんだ! 動いてるじゃないか。
 あっ、井上嗣也だよ」(笑)
 
 
 
井上 カッコいいと思うよ。
ズルズルズルっとさぁ。
要するに、俺は、見られたくないんだよ。
山本夏彦は、「犯罪をする自由」という
言葉を使ったよね。
 
糸井 ここで山本夏彦が出てくるとは思わなかったな。
でもまあ、それは、うまくいってんじゃない?
いまのところは。
 
井上 ま、けっこうね。
‥‥こんなことがなければね。
糸井さんから言われたんじゃなかったら、
俺、こんなことしないよ。
抵抗できないもん。
 
 
 
糸井 ごめん、ごめん。
俺、嗣也に出てもらおうと思いついたとき、
うれしかったもの。
 
井上 それに「Tシャツ」で釣られた、
ということもあるね。
企画書が送られてきて、
「Tシャツ!」って飛びついて、
その場でタコを描きはじめたから。
 
 
 
糸井 Tシャツは、いままでにいっぱいつくってるでしょう?
井上嗣也Tシャツコレクションができるくらいに。
 
井上 いや、数は、つくってない。
つくるより買うほうが好きよ、俺。
そうねぇ、これまでつくったのは、
壺のやつ。壺がドーンとプリントしてあって‥‥。
 
糸井 あっ! コム デ ギャルソンで
見たような気がする。
あれ、嗣也だったの?
あれはもう、完璧な「商品」じゃないですか!
 
井上 壺が、俺のイメージでは「妊娠」だったの。
広告にも同じモチーフを使ったよ。
あれはよかった。
あとは、花のTシャツもつくったな。
 
でも、自分のやったものって
ほとんど忘れちゃうからね。
こないだ行ったお店にさ、
お茶のポスターが貼ってあったのよ。
そんで、「いいポスターだなぁ」と思って近づくと、
何秒か後に、
あ、これは俺が糸井さんとやったポスターだ、
と気づくわけ。
その繰り返しなんだ、俺は。
忘れちゃってる。
自分でつくったのに、ドキッとしちゃうんだよね。
共犯みたいな何かがあるんだろうな、不思議なんだな。
 
糸井 俺もそういうとこ、あるよ。
自分の蒔いた種なのに、
クンクンして近づいちゃう。
それは、つくっているときに
あまり「自分」というつもりがないからでしょ。
 
井上 ない、ない。もう、全然ない。
一生懸命たくさんつくるから、
あとは、選んでほしいだけ。
今回のTシャツは、人気投票だから、
ものすごい悩んだわけよ。
 
糸井 これまでそんな目に遭ったことがないからね(笑)。
 
井上 Tシャツをつくってポンと渡すだけだったらいいけど、
今回は競争だから、
ウケるものじゃないとダメでしょ。
でも、最後はやっぱり「自分の好きなもの」に
なっちゃうんだよな。
 
糸井 結局、勝負って、勝つためになんかできないね。
 
井上 フフフフ。‥‥ね!
 
糸井 しかし、こういう大ざっぱなことを言っていても、
この人は細かいからね。
だいたい、この部屋の本の積み方は何なの?
 
 
 
井上 これは、飾り。
サイズでわけてるだけよ。
この「サイズ」というのがね、ものすごく便利なの。
あの本はここにある、というのがわかる。
 
糸井 紙のサイズというのは決まってるものだからね。
でも、こんなに積んであっちゃ、見やしないでしょ。
「見る」じゃなくて「わかる」だけで
何の意味もないじゃない。
 
井上 思い出‥‥目の思い出だよ。
墓に行くとき、棺おけに入るときに、
ああいうのんびりした写真があったな、とね。
 
2005-09-17
  後編へつづく


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